その男を初めて見たのは、一昨年の秋だった。同年の4月にお笑いコンビ、Wコロンを解散した、「ととのいました」ネタでおなじみの、ねづっち(42)が格闘家デビューすると聞いて、遠く立川まで取材に出掛けた。スポーツ部時代には格闘技担当を務め、現在はお笑い担当の自分が取材しなくて誰がする、といった気持ちで出陣した。

 40人も入れば満員になるような格闘ジムの金網の中で、ねづっちは柔道着姿で戦って敗れた。身長182センチと、イメージとは違ってデカいねづっちに驚きながら、負けた試合の話を聞いたのだが、さらなる衝撃があった。余興として登場した、その男だ。

 格闘技用の金網リングにへばりついて写真を撮っていたので、手が届きそうな1・5メートルくらいの目の前で、銀のお盆を手にした全裸の男が名作「丸腰刑事(デカ)」のネタを披露していた。正直、震えた。こんな完成度の高いお笑い芸を見たのは、92年にホンジャマカの名作コント「出張お父さん」を取材した時以来だった。その男の名前はアキラ100%(42)といった。

 あまりの感動に、アキラ100%のツイッターに「すごくおもしろかったです」とつぶやいたら、「ありがとうございます。今回はケージでしたが、客席が2方向だったんで助かりました!」と返事が返ってきた。井手らっきょ、江頭2:50など裸芸人を取材してきた身としては、いつかじっくり話を聞きたいと思いながら果たせずにいた。

 2月28日の「R-1ぐらんぷり」決勝。記者の本命は当然、アキラ100%。だが、予想を聞いてくる人に「本命はアキラ100%だけど、もし馬券を買うとしたら三浦マイルドだよ」と言っていた。

 “マイルド師匠”こと三浦マイルド(39)は13年のR-1王者。優勝して1年以上たってから上京。その後は“優勝してもブレークできないR-1”の代名詞のように言われ、一時は芸人を辞めるんじゃないかともうわさされた。そのマイルド師匠と出会ったのは、1月初旬に東京・池袋で行われた小さなお笑いライブ。無名芸人ばかりの中に出場していたことに驚いたが、それ以上に面白かったのに驚いた。

 記者の中では、三浦マイルドは「ブレークできずに泣きながら表舞台から消えて行った芸人」になっていたのだった。思わず、話し掛けるとマイルド師匠は「今年は本当に真剣に、またR-1で優勝することを狙っている。本番に合わせて、感覚を磨くために、どんな小さなライブでも積極的に出ようと思っている」と胸中を明かしてくれた。

 そして決勝の6日前に、吉本興業東京本社で偶然会ったマイルド師匠は、激変していた。「テレビ映りが悪い」というアドバイスを真剣に聞いて、15キロも体重をシェイプアップしていた。本番当日はだらしなく垂らしていた前髪も切りそろえた。決勝のファーストステージはネタのできも完璧。だが、サンシャイン池崎(35)に2点差で負けて、ファイナル進出はならなかった。その2点差は、視聴者の投票による2点差。負けてもマイルド師匠に悔いはなかった、と信じたい。

 で、ファイナルステージはアキラ100%が、サンシャイン池崎と石出奈々子(32)をぶっちぎって優勝。他の2人は、2本目のネタが弱かったが、アキラ100%は両方とも爆笑を誘った。今後については裸ネタならではの使い方の難しさもあるが、記者としては海外進出も大いにありと、その可能性に期待すること大だ。

 R-1では「絶対見せない de Show」と題した、細かいネタ、ギャグをつないだが「丸腰刑事」「筋トレ」などのストーリー仕立てのコントは、簡単な英語に訳せばOKでラスベガスに出しても恥ずかしくないエンターテインメントだと思っている(笑い)。

 アキラ100%とマイルド師匠の健闘で、幸せな気分で会社に帰ってきたら悲報が待っていた。女優堀北真希(28)の引退だ。

 堀北の20歳の誕生パーティーの時だ。年を重ねると値段的に手が出なくなるが、20歳以下のお誕生日プレゼントは生まれ年のワインと決めている。未成年なら「成人になったら飲んで」とかのメッセージを添える。堀北の誕生会は、直接本人に手渡して「1988年という年は、日本の女優とワインの当たり年」とか話した記憶がある。

 黒木メイサ、戸田恵梨香、新垣結衣、吉高由里子、菜々緒、大島優子、栄倉奈々らと第一線で活躍する女優がそろっているが、若くして先頭を走っていただけに引退は残念。周囲の人たちの堀北にかける並々ならぬ愛情を知っているだけにつらいが、いまは「お幸せに」という言葉を送りたい。