【ライブレポート】Sound Horizon、「平和な時代に音楽の革命が起こるところを見せてやる」

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写真:佐藤祐介


Sound Horizonのコンサートでお馴染み、パラレルワールドのレコード会社バニーオニオンのマスコットキャラクターである「バニオン」が昨日28日に『ゆるキャラグランプリ2015』へエントリーした。バニーオニオンにはバンド「VANISHING STARLIGHT」が所属しており、バニオンは同バンドのプロデューサー・Revoの後押しでグランプリへ参加した形だ。

今回はバニオンの活躍を応援すると同時に、先日バニオンもオンステージしたSound Horizonの<9th Story Concert>について、改めて初日レポではお伝えできなかった部分に光を当てたい。

◆Sound Horizon 画像

Sound Horizonによるコンサート<9th Story Concert『Nein』~西洋骨董屋根裏堂へようこそ~>が追加公演である5月24日の東京国際フォーラム公演で全11公演を終えた。本稿では最終日公演の模様をお届けする。

今回のコンサートは、Sound Horizonのメジャーデビュー10周年記念作品第3弾である9th Story CD『Nein』の世界観をステージ上に表現するべく執り行われたものだ。おさらいになるが、Sound Horizonはこれまで楽曲に限らず歌詞カードやパッケージにも様々なギミックを盛り込み、各CDごとに様々な“地平線”(=世界観)でのストーリーを提示する”物語音楽”でローラン(※Sound Horizonファンの呼び方の一つ)を魅了してきた。

10周年アニバーサリーを飾る『Nein』では、それまでのSound HorizonになかったサイバーSF風のパッケージがローランを驚かせた。『Nein』はSound Horizonがここまで紡いできた複数の物語を一枚のCDで振り返ると同時に、“もしあの時こうだったら、何かが変わっていたのだろうか・・・”とSF的に新たなアプローチを加えた結果生まれた、新作の”物語音楽”CDだ。単純なベストアルバムとは完全に別物、アニバーサリーを飾るのにふさわしい内容であるとともに、相当な期間をかけて構想が練られたことが覗える作品になっている。

さて、そんな作品背景を十分に堪能し咀嚼したローラン達が、この24日の国際フォーラムの最終公演には集結していた。開演前のシンクロライト・リストバンドの説明を行なうのはナレーション担当のサッシャ。彼のナレーションによる導入を経て、ステージ前に垂れたスクリーンに“Noëlと《遮光眼鏡型情報端末》”が登場する映像が映し出され、アルバムリード曲「檻の中の箱庭」からコンサートはスタートした。

疾走感溢れるデジタルチューンの中、『Nein』からの登場キャラクターである黒猫四姉妹、そして便宜上R.E.V.O.とおぼしき黒猫がダンサーの黒猫たちと共に舞い踊る。暗闇の中で5匹の黒猫たちの身体に走るネオンラインが光り、特にセンターの便宜上R.E.V.O.に至ってはその青い光のラインが記号化されたように上下左右へ瞬間移動したり、コマ送りのようにモーションが加わって表現される。光のグラフィックアートが楽曲の終わりと共にスマートに収束すると、会場からは爆発的な歓声と拍手が沸いた。

「檻の中の箱庭」はそれ自体楽曲として、またショウとして完成度の高い作品だが、『Nein』全体で見た時にはスタート地点になる楽曲でもある。歌詞がモノローグ形式で歌われるこの曲の主体“ワタシ”が、次の曲以降では傍観者的な立ち位置で各曲前のモノローグを綴り、複数存在する“地平線”に一つずつ接続する主体と化すのだ。

やがて箱のフレームを思わせる巨大セットの中央に便宜上R.E.V.O.が立つと、次の世界への接続が始まった。2曲目「名もなき女の詩」では歌姫に花れんを迎え、大陸的な風景の中で伸びやかな歌声をじっくり聞かせるソロパートから“パン屋”の陽気でコミカルなパートで会場のローランと共にクラップで盛り上がり、さらに王宮でのShin-Imayamaによる詩吟パートへとダイジェスト的な流れで繋げる。決して長い尺ではない楽曲の中で登場人物たちが辿る旅をわかりやすく、エモーショナルに見せる舞台構成もこのStory Concertの魅力だ。

ところで、この最終公演では「名もなき女の詩」のラストに詩人の男が現れ、花れん扮する女性が彼の名を呼ぶシーンが追加されている。それまでにない物語の展開に会場のローランからは嬉しい悲鳴にも似た驚きの声があがった。続く「食物が連なる世界」でも、南里侑香が演じる“私”が『Nein』CD内の同楽曲と若干違う、より前向きな語りかけを見せ、ローランから拍手が上がる。今回初めて<9th Story Concert>を見た人はもちろん、何度も同コンサートへ通ったローランのためにも、Sound Horizonはそれぞれの楽曲で新たなif、“もしあの時こうだったら”を提示しているのだ。最終公演でしかできない特上のサプライズだった。

「言えなかった言の葉」では結良まりが凛とした母親役をクリアな歌声で好演。「憎しみを花束に代えて」では中盤パートでmarie*marie(10周年記念マキシ「ヴァニシング・スターライト」の登場人物)が“女性記者”として突如出現し、再びローランが抑えきれない興奮の悲鳴をあげる。物語の主人公である赤いドレスの女性・ステラ(演:Fuki)のパワフルな歌声にぐいぐい引っ張られながら話が進み、終わりにはmarie*marieが危機に陥ったところへ、ローランから大人気のバンドVANISHING STARLIGHTのボーカルであるNoëlが現れ、marie*marieを連れ去った。

ここでコンサートは一息休憩のMCタイムへ。ステージへ再登場したNoëlは先ほどの顛末に喜んでいるローランに対し「幽霊でも見たんじゃないのか?」と諭しつつ、MCではローランたちを「黒猫たち」、観客席を「路地裏」と見做し、バンドマンらしいフリで黒猫たちの路地裏ウェーブを実現させた。さらに即興の歌唱タイムでは「檻の中の箱庭」の冒頭をソロで歌ってみせるなどサービス精神旺盛なノリで会場を盛り上げ、会場のローランにも和やかな笑い声が湧く。

そんなNoëlの携帯に着信が入るイントロで、コンサートは『Nein』の一つのターニングポイントである楽曲「西洋骨董×屋根裏堂」(※「×」は唇の絵)から後半戦へ。この曲はNoëlと西洋骨董屋根裏堂の女店主、そして「檻の中の箱庭」でも登場した黒猫四姉妹がくるくると立ち回るミュージカル的なナンバーだ。女店主の「代金がわりに、貴方の一番大切なものを頂こうかしら……なんてね」という不穏な台詞が耳に残るなか、「涙では消せない焔」では多数のダンサーによる紛争情景がダイナミックに繰り広げられ、その中で歌姫・RIKKIの歌声が冴えわたる。栗林みな実が運命に翻弄される兄妹の片割れを演じる「愛という名の咎」では死神の介入を思わせる展開で観客席からまたも強烈な悲鳴があがり、「忘れな月夜」ではJoelleの透き通るような歌声がローランを深く地平線の内へと惹きこんだ。
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