俳優の菅田将暉さんと、監督としても活躍する韓国の俳優ヤン・イクチュンさんがプロボクサーに扮(ふん)した映画「あゝ、荒野 前篇」(岸善幸監督)が7日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで公開される。原作は、劇作家、詩人、エッセイスト、映画監督などマルチな才能を発揮した寺山修司(1935~83年)が遺した唯一の長編小説。岸監督と脚本を担当した港岳彦さんは、舞台を原作の1966年から約半世紀後に移し、登場人物の生い立ちやつながりにも変更を加えている。だが、原作のテーマや世界観は損なうことなく、男のロマンにあふれ、ヒリヒリする痛みを伴う青春映画に仕上げている。
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2021年の新宿。少年院を出所したばかりの沢村新次(菅田さん)と、引っ込み思案で吃音(きつおん)に悩む二木建二(ヤンさん)は、元ボクサーの“片目”こと堀口(ユースケ・サンタマリアさん)に誘われ、彼の運営するボクシングジムに入る。一緒にトレーニングをしているうちに、新次と建二の間には兄弟のような絆が生まれていく。やがて2人はプロボクサーを目指すようになるが、その先には皮肉な運命が待っていた……というストーリー。木下あかりさん、モロ師岡さん、高橋和也さん、山田裕貴さん、でんでんさん、木村多江さんらも出演している。
行き場をなくし、孤独に暮らしていた新次と建二。殴り合うことで生きていることを実感し、絆を深めていく2人に、青春映画特有の爽快さはない。見ていて切なくなる。それだけに、傷を負った手でサンドバックを打ち込む建二を片目が制止し、思わず泣き出した建二をなだめる片目と新次を見ながら、3人が“家族”になった瞬間に立ち会えた気がして、心がじわりと温かくなった。
今回の役を演じるに当たり、菅田さんは増量から、ヤンさんは減量からスタートし、共に、62~63キロを目安に肉体を改造していったという。そんな2人がリングに立ち、血と汗をほとばしらせる姿は、痛々しいながらも美しく、崇高ですらある。
ユースケさんに、陰のある片目役は思いのほか合っていて、新次と建二にはない大人の男の色気を放っていたことも印象深い。親友であり、家族であり、兄弟でもあった新次と建二の関係は、終盤で新たな局面を迎える。果たして、彼らの行く手にどのような運命が待ち受けているのか。21日からの後編の公開を待ちたい。(りんたいこ/フリーライター)
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