大相撲の春日野部屋に所属していた元力士(24)が弟弟子の矢作嵐氏(22)に暴行を加え有罪判決を受けた問題で、新たな疑問が浮上した。事件の管理責任者である春日野親方(55=元関脇栃乃和歌)は25日、隠蔽疑惑を否定。日本相撲協会の執行部と危機管理委員会に事実関係を報告していたと説明した。なぜ、協会は公表を控えたのか。また、被害者である矢作氏のフェイスブックの過去の書き込みに対しても不可解な点が出てきた。謎が多い騒動を追った――。

 この日、報道陣の取材に応じた春日野親方は「私のことでお騒がせして申し訳ありません」と謝罪した上で、14年9月の事件発生から間もなく相撲協会の執行部と危機管理委員会に事実関係を報告していたことを明らかにした。また、一部で隠蔽と批判されていることについては「うちの部屋(春日野部屋)として公表はしていないが、協会には私から報告しました。私としては、隠したということは全くない」と反論した。

 角界内で暴行事件などの不祥事が起きた場合、相撲協会の危機管理委員会が対処にあたる。元横綱日馬富士(33)による傷害事件や、立行司の式守伊之助(58=宮城野)のセクハラ行為が発覚した際には、危機管理部長の鏡山親方(59=元関脇多賀竜)が責任者として対応。事実関係の調査をはじめ、会見で協会からの発表事項の報告などを行った。

 そして、春日野部屋の事件が発生した当時の相撲協会理事で危機管理部長を務めていたのが貴乃花親方(45=元横綱)だった。当時の春日野親方は理事でもなければ、役員待遇でもない立場。一般の会社で例えれば「ヒラ社員」のようなものだ。親方の一人は「部屋の不祥事は、協会の不祥事でもある。部屋が独断で公表などできない。協会のほうで判断して決めることだ」と断言した。

 とはいえ、不可解なのはなぜ公表せずの結論に至ったのか。単に不祥事を隠蔽したかっただけなのか。それとも公表に及ばずの事案と判断したのか。春日野親方が弟弟子があごを骨折したなどトラブルの詳細をどこまで報告していたかも焦点になりそうだ。

 いずれにしろ、相撲協会が最終的に公表しなかったのは事実で、当時の協会トップだった北の湖理事長(元横綱)か、危機管理部長だった貴乃花親方が判断したのだろう。ただ、事件を公表しなかった事実に限定すれば、春日野親方よりも、むしろ貴乃花親方のほうに責任があったことになる。この日、貴乃花親方は報道陣からの「危機管理部長として報告を受けていたのか?」との問いかけには答えなかった。

 もちろん、弟子による傷害事件ということで、春日野親方に監督責任があったことは否めない。刑事罰まで下されているのだから、責められるべきは加害者の元力士とその師匠。それが今回の一件の大前提だ。だが一方で別の親方から、貴乃花親方に対して「(当時の)責任者だったのだから、ちゃんと説明しないとダメだ」との声も上がっているのも事実だ。

 日馬富士の傷害事件で、貴乃花親方は相撲協会に対して非協力的な姿勢を取ったとして理事から役員待遇委員への降格処分を受けたばかり。事件発生から3年あまりが経過した今になって「平成の大横綱」に思わぬ形で新たな“責任問題”が急浮上した格好となった。