アカデミー賞受賞者の謝辞はたいてい共演者やスタッフ、家族に向けられる。今年助演男優賞となったサム・ロックウェル(49)は受賞スピーチの中で、そこに「フォックス・サーチライト」への感謝も付け加えた。受賞作「スリー・ビルボード」の製作、配給したスタジオだ。今回の授賞式で陰の主役となったのがこのフォックス・サーチライトだったと思う。

 作品、監督など4部門を制した「シェイプ・オブ・ウォーター」のギレルモ・デル・トロ監督(53)も先の来日時のインタビューで、このスタジオへの思いを明かしている。

 「今までいろんなプロジェクトに関わってきたけれど、正直言ってつらい経験も悲しいことも少なくなかった。今回初めて仕事をしたフォックス・サーチライトは僕のアイデアを尊重してくれて、どこまでも協力的で素晴らしいスタジオだった。僕にも多少の発信力があるだろうから、このスタジオの評判を高めるためにことあるごとに発言していこうと思っている」

 そもそもアカデミー賞の本命、対抗が同じスタジオから生まれるのはそうあることではない。

 ハリウッドのメジャー・スタジオと言えば、ディズニー、ワーナー・ブラザース、20世紀フォックス、ユニバーサル、そしてソニーなどが頭に浮かぶ。フォックス・サーチライトはそのひとつ、20世紀フォックスの子会社である。

 94年に設立。親会社に比べると、よりインディペンデント色の濃い作品を扱ってきた。既成のヒット方程式にこだわる大手スタジオなら、敬遠するような題材にあえて挑むような姿勢がある。リスクと隣り合わせの体質とも言える。

 16歳の女子高生の妊娠を題材にしたハートフル・コメディー「JUNO」(ジェイソン・ライトマン監督)が世界的にヒットしたのは設立から13年目の07年。これも当初は7館のみの公開からスタート。ローカル映画賞での評判や口コミが広がり、全米2400館まで上映が拡大した末の2年がかりのヒットだった。そして翌08年の「スラムドック$ミリオネア」(ダニー・ボイル監督)でようやくアカデミー作品賞にたどり着く。

 以降、思い当たるだけで「(500)日のサマー」(09年)「ブラック・スワン」(10年)「マリー・ゴールド・ホテルで会いましょう」(11年)「セッションズ」(12年)「グランド・ブダペスト・ホテル」(14年)「バードマン」(同)「わたしはマララ」(15年)「ブルックリン」(同)「ジャッキー ファーストレディ最後の使命」(16年)「ギフテッド」(17年)と数多くの秀作を輩出した。その多くがアカデミー賞にノミネートされ、そのいくつかが受賞作となっている。ここ5年余りは「名作量産工場」と言っていいと思う。

 振り返ってみれば、妙に心に引っ掛かったり、新しいものを感じた作品のほとんどがこのスタジオの製作だった。

 昨年12月。ディズニーによる20世紀フォックスの買収が発表された。サーチライトもディズニー傘下に入ることになる。「夢の国」ならではの方程式でヒットを量産するディズニーのもとで、サーチライト流は通用するのか、認められるのか。

 今年の授賞式司会者ジミー・キンメルはヒット中のディズニー作品「ブラックパンサー」をしばしばジョークのネタにした。その度にそんなことを思いだし、実は気になって仕方がなかったのである。【相原斎】