日付変わって、13日は母の日。12日の取材現場で、銀幕スターらしい「母の日」エピソードを耳にした。

 時代劇など数々の映画作品に出演し、「世界のミフネ」と称された故三船敏郎さんを追ったドキュメンタリー映画「MIFUNE;THE LAST SAMURAI」の初日舞台あいさつでのこと。MCの水道橋博士に水を向けられた三船さんの長男史郎氏(67)が、小学校時代の思い出を明かした。

 当時の三船さんは、小型機の免許を取ったばかりだったという。「私が小学生のとき、母の日に運動会があったんです。そのときに父がセスナに乗ってきて、グラウンドの上空を低空飛行したんです。そして、赤いカーネーションの花束をばらまいたんですね」。妻幸子さんのみならず、わが子のために運動会に駆けつけたすべての母親たちを幸せにする、銀幕スターらしい豪快な逸話だった。

 史郎さんによると、普段の三船さんは「きちょうめんで、もの静かで、おとなしい性格だった」という。ところが、「お酒を飲むと人が変わって、刀を振り回したり…」と、別の意味で豪快な話も明かしてくれた。共演歴の多かった香川京子は、「衣装部さんの荷物をすっと持って運んであげたりとか、メイクさんとか女性が多いので、三船さんは大変な人気でした」と、心優しいエピソードを披露。司葉子も「朝、スタジオに行くと、掃除をされているおじさんがいて、それが三船さんだった」と、腰の低さに驚いたという。語る人によって、異なるエピソードが出てくる。それも、「人間・三船敏郎」の魅力だろう。

 「七人の侍」「羅生門」「用心棒」など、黒沢明監督と組んで数々の作品に出演し、日本の武士道精神を世界に知らしめた、日本が誇る歴史的人物とも言える。スティーブン・スピルバーグ監督、マーティン・スコセッシ監督ら、世界の映画人に影響を与えた。そんな三船さんに、いまだに国民栄誉賞を与えられていないというのは、何とも不思議な話である。