紀里谷和明監督(47)の7年ぶりの新作「ラスト・ナイツ」が公開中だ。ハリウッド進出第1弾となる映画。主演の英俳優クライブ・オーウェン(51)米俳優モーガン・フリーマン(78)をはじめ、12カ国のスタッフ、俳優が集結した、文字通りの国際的作品だ。完成までの秘話を紀里谷監督が語った。

 前作「GOEMON」から7年。完成までは、いばらの道だった。前作の公開前年に宇多田ヒカル(32)と離婚。本拠地を米国に構えたが、なかなか新作始動とはならなかった。「とにかく脚本を読みました。年間数百冊。1日1冊のペースでした」。3年前、カナダのマイケル・コニーヴェス氏の脚本に出合った。「最初のページから手が止まらなかった。大切なもののために筋を通すという普遍的テーマが貫かれていたんです」。「忠臣蔵」を下敷きにした脚本だったが、西欧風の「封建国家」を舞台に無国籍的な作品をイメージした。「黒沢明監督の『蜘蛛巣城』や『乱』がシェークスピアを下敷きにしていることを考えれば、その逆に挑戦してみようと思った」。

 主演はクライブ・オーウェンと決めていた。仕事先の上海に乗り込んで交渉した。脚本に感銘したオーウェンは意外にもあっさりとOK。もう1人の主役モーガン・フリーマンもすんなり決まった。しかし、同時期にキアヌ・リーブス(51)主演の映画「47RONIN」の企画が始動していた。「忠臣蔵」という題材が重なってしまった。後押しを約束していたハリウッドの大手スタジオが、手のひらを返したように難色を示し始めた。日米韓を飛び回り、出資してくれるスポンサーを懸命に探した。12カ国にまたがるスタッフ、キャストを集めるまでに2年余りの歳月がかかった。

 いざ撮影に入ると、これまでの作品とのスケールの違い、世界の重鎮級のキャストを指揮する重みがのし掛かってきた。「(チェコの)雪山で極限状況での撮影になりました。演出プランの確認などで寝る時間がない。製作者の1人でもあるので毎晩のように『資金が枯渇した』なんて電話が掛かってくる。明らかに頭がおかしくなった。俺は映画に向いてない。死んだら許してくれるのか。そんなことを考え、負のスパイラルに落ちていきました」。

 ギリギリの精神状態で現場に立ったある日、フリーマンが声を掛けてきた。

 「いろんな監督とやってきたけど、君は全然大丈夫だから」

 涙ぐみながら振り返る。「あのひと言に救われました。これからも続けられる気になりました」。「ラスト・ナイツ」は30カ国での公開が決まっている。名優の言葉に支えられ、報われた世界デビューだった。【相原斎】

 ◆紀里谷和明(きりや・かずあき) 1968年(昭43)4月20日、熊本県生まれ。ニューヨーク在住の90年代に写真家として活動開始。PVのほか、CM、広告、雑誌のアートディレクションも手掛ける。04年「CASSHERN」で映画監督デビュー。監督作はほかに08年「GOEMON」。