まさかの大波乱だ。大相撲初場所12日目(24日、東京・両国国技館)、関脇玉鷲(34=片男波)が過去13戦全敗の横綱白鵬(33=宮城野)を撃破。大横綱に何度も顔面を張られてもひるまず、土俵際でいなして相手を後ろ向きにさせると、一気に前へ出て押し出し、2敗同士で優勝争いのトップに並んだ。

 座布団が乱れ飛んだ満員札止めの館内。玉鷲は取組後「(勝った瞬間は)『エッ、勝ったの?』みたいな。座布団が舞った? 気持ちいいですね」と喜びをかみしめた。
 特技は手芸やクッキーなどの菓子作り。角界屈指の“女子力”で知られる一方、土俵の上では「鉄人」の顔を持つ。2004年3月場所の序ノ口デビューから一度も休場したことがなく、この日で連続出場は現役トップの1148回にまで伸びた。

 玉鷲の頭の中には「休場」という選択肢はない。一昨年9月の秋場所2日目、大関高安(28=田子ノ浦)との取組で右足首を負傷。足を引きずりながら花道を引き揚げた。さすがに休場かと思われたが、本人は「ケガをしても戦うのがプロ」と言い切り、翌日からも平然と出場を続けた。

 三十路を過ぎてから三役に定着した遅咲きの男は満開の時を迎えようとしている。初優勝のチャンスにも「意識したら、いいことはない。普段通り、一番一番」と、あくまでも無欲で臨む構え。1差の3敗までに5人がひしめく混戦模様の中、思わぬ男が主役に急浮上した格好だ。