東京芸術劇場の芸術監督で、演出家・俳優の野田秀樹(63)が主宰する「東京演劇道場」が3月から本格的に始動する。

若い演劇人を育成したいという思いから、演劇道場を立ち上げ、昨年11月に募集を始めたところ、1700人から応募があった。書類審査で300人に絞り、第1次、第2次のオーディションを経て、60人が残った。応募者の年齢層は8歳から70代後半と幅広く、商業演劇の主演級スター、アイドル、現役アナウンサー、劇場経営者、妊婦さんまでいたというが、最終的には残らなかったという。

オーディションでは、「マーガリン」とか「友情」という言葉について、批判的に表現しなさいという課題が出されたという、立ち会った野田は「ひどい人はいなかったけれど、これは次代の才能とまで感じる人もいなかった。でも、面白い人がそろった。1700人という応募者数も、中には有名になれるんじゃないかという不純な人もいるけれど、それだけ芝居のことをちゃんと考えている人がいると思った」という。3月から数日間のワークショップを、年に数回重ねながら、「来年か再来年に芝居という形で打てればいいと思う」。

演劇道場のチラシデザインは、東京五輪の公式エンブレムに選出されたものの、オリジナリティーの有無で使用中止となった佐野研二郎氏が担当した。野田ら教える側は「師範」、教わる側は「道場生」とし、「道場ってネーミングだと、遊びができるのがとてもいいなって。それで道場破りって制度を作ろうと思ってて、例えば、白石加代子さんに来てもらって、何かやってもらうというのもあるかな。それに僕のやり方だけがすべてじゃないので、他の演出家にも来てもらいたい」。オーディションにも立ち会ったノゾエ征爾、柴幸男、熊林弘高、近藤良平らも「師範代」として参加する予定という。

基本的には無料だが、海外からの演出家を招いてワークショップを行う時は有料にするという。「演劇のプラットホームというか、出会いの場所にしたい。私と出会うことだけでなく、道場に集まった人間たちで創作が始まってもいいと思う。私も年を取ったので、自分の肉体では表現しきれないことも増えてきたので、若い時の私のように、真摯(しんし)な肉体を見つけたい」。63歳の野田の新しい「冒険」がまた始まる。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)