55年越しのリターンズ作品である。「メリー・ポピンズ リターンズ」が2月1日に公開される。

ジュリー・アンドリュース主演の第1作は当時の常として1年遅れで日本公開された。早口言葉の「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」「チム・チム・チェリー」…子供心をくすぐる名曲に、実写とアニメを融合した不思議世界。心躍る作品だった。

アンドリュースには翌年公開の「サウンド・オブ・ミュージック」という傑作があるが、小学校に上がってばかりの私には、いかにもというディズニー・タッチのアニメーションを差し込んだこちらの方がしっくり来た。というわけで、半世紀あまりのインターバルを実感しながら「-リターンズ」に向き合った。

劇中では前作から20年の月日がたっている。舞台は大恐慌下のロンドン。前作ではいたずら好きの少年だったマイケル・バンクスは成人し、3人の子持ちとなっている。厳格だった父親が勤めていた銀行の臨時雇用で家族と「桜通り17番地の邸宅」を何とか守っている。が、先行きの見えない不景気でローンの支払いもままならない一家は担保となっている邸宅から追い出されそうだ。

前作の父親は仕事人間でいつも不機嫌だったが、そんな父を反面教師に、メリー・ポピンズの薫陶を受けたマイケルは家族思いだ。が、その分仕事はできない。

一家が抱える問題は前作よりむしろ深刻といえる。そこに再び空からスーパー・ナニーのメリー・ポピンズが現れてこの難問を解決していくという筋立てだ。

前作を見たときはさらりと受け止めたが、今になってみるとこの「ナニー」という職業が気になる。直訳すれば乳母ということになるのだろうが、子育て全般を受け持つという意味でもう少し重きを置かれた存在なのだと思う。家庭教師的な意味合いを持つガヴァネスという職業もあるそうで、メリー・ポピンズにはこちらの色合いも少しある気がする。

前作同様、彼女は明確な指導をするわけではないが、子どもたちを遊ばせながらいつの間にか「正しいレール」に乗せていく。

ポピンズを演じるのはエミリー・ブラント。最近では「ボーダー・ライン」(16年)のFBI捜査官が記憶に残るが、髪形ひとつですっかり印象が変わり、今作では見詰められると思わず「イエス」とうなずいてしまう気品が漂う。親しみやすかったアンドリューズ版より、神秘的に見える。

技術的な進歩はアニメーション部分に顕著だ。ベッタリと二次元的だった前作に比べ、立体的な動きが楽しめる。一方で、ディズニーならではのおとぎタッチはしっかりと受け継がれている。

初監督した「シカゴ」(02年)以来、ミュージカルの組み立て方を心得たロブ・マーシャル監督は前作の空気をそのままつないだ音楽で味付けして、うなずかされるポイントは少なくない。マイケル少年の「2ペンス貯金」など、前作のエピソードにしっかりとオチがつけられる。

脇はコリン・ファース、メリル・ストリープと巧者が固める。アンドリュースが「これはエミリーの映画だから」と特別出演を辞退したのも良かったのではないかと思う。再びメリー・ポピンズが空に去っていくラストシーン。この年齢になってまさかと思ったがウルッときた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)