大黒屋光太夫の銅像を前にした松本幸四郎
大黒屋光太夫の銅像を前にした松本幸四郎

松本幸四郎(46)と三谷幸喜氏(57)のコンビが13年ぶりに帰ってくる。6月の東京:歌舞伎座「六月大歌舞伎」で、幸四郎主演、三谷氏の作・演出の新作歌舞伎(題名未定)が上演されるもの。06年に染五郎時代の幸四郎が主演した、三谷氏の初めての歌舞伎「決闘! 高田馬場」以来となる。

先日、幸四郎は新作歌舞伎の主人公となる大黒屋光太夫の故郷三重県鈴鹿市を訪れた。3月は3日から歌舞伎座公演があるため、舞台のない2月に訪問した。「1人でも来ようと思っていた」というほどの入れ込みようで、鈴鹿市内に点在する光太夫記念館、光太夫供養碑などをじっくりと見て回った。

幸四郎は「またやりたかった三谷さんの新作を歌舞伎座でできるのは幸せなこと。面白いものになると思う」。「決闘!」の前にも、父松本白鸚と三谷氏作品「バイ・マイセルフ」「マトリョーシカ」に出演しており、「すごいものにしかならないと思う」と全幅の信頼を寄せている。

光太夫は井上靖氏の小説で、92年に緒形拳主演で映画化された「おろしや国酔夢譚」のモデルになった人物。鎖国体制の江戸時代に船頭として乗った船がロシアのカムチャッカ半島に漂着。シベリアを横断して女帝のエカテリーナに謁見しに行き、10年の歳月をかけて帰国した。「鎖国の時代だったからこその事件。逆に鎖国だったからこそできたのが歌舞伎だと思うので、因縁を感じる。自分を通して光太夫を知っていただくのが役目なのかなと思います。記念館などを訪れて、(人物像が)はっきり見えてきた気がします」と手ごたえを口にした。

三谷氏の脚本はまだ出来上がっていないが、幸四郎の光太夫役のほか、「決闘!」で共演した市川猿之助(が船乗りの庄蔵とエカテリーナの2役、片岡愛之助が船乗りの新蔵、白鸚が船親司の三五郎とロシアの軍人で、エカテリーナの愛人とも言われるポチョムキンの2役を演じる。幸四郎は「日本が舞台という場面がない歌舞伎座の歌舞伎は初めてじゃないかな。ロシア語のセリフもあると思います。父はロシア人役なので、かなり不安そうでした」と明かした。

光太夫は帰国後、海外の事情などを伝えたという。「野心とかがあったわけでなく、漂流というアクシデントの中で運命に身を委ね、純粋に生き抜いた人。新しい年号で最初の新作歌舞伎となり、今回の訪問は、公演に向けていい船出の1歩になった」。「ワンピース」「ナルト」などの漫画を原作にした歌舞伎とはひと味違った舞台となりそうだ。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)