相手が止まって見える――。大相撲春場所13日目(22日、大阪府立体育会館)、横綱白鵬(34=宮城野)が大関豪栄道(32=境川)を寄り切って幕内で唯一の全勝をキープ。3場所ぶり42回目の優勝に向けて、いよいよ秒読み段階に突入した。取組後は「この13日間の相撲を取り切りたい」と残り2日間へ向けて気持ちを引き締めた。

 前日21日にマリナーズのイチロー外野手(45)が現役を引退。大横綱は深夜にもかかわらず引退会見の模様をテレビの生中継で見ていたという。2人が出会ったのは今から13年前。白鵬は「1回食事をして『初めまして』と言ったら、そうじゃなかった。(以前に会っていたことを)イチローさんが覚えていた。大きな過ちを犯しちゃった(苦笑い)」と振り返る。

 イチローは2006年1月に愛工大名電高の先輩にあたる元幕内朝乃若(現若松親方)の断髪式に出席。その場で当時は関脇で20歳の白鵬と顔を合わせていたのだ。記憶力には絶対的な自信を持つ白鵬も「上には上がいた」と懐かしむように話した。

 競技は違えど、類いまれな運動能力で結果を残し続け、前人未到の大記録を打ち立てた共通点がある。今場所も相手に背中を向ける絶体絶命の場面から驚異的な動きで逆転する相撲がいくつかあった。白鵬は「一瞬だけど、自分の中で周り(の動き)がすべてゆっくりになる。15日間で2、3番は苦しい相撲を拾わないと結果はついてこない。そのために日ごろの生活や稽古が生きている」と話す。

 野球の打者に例えるならば「ボールが止まって見える」の境地か。いずれにせよ角界の大横綱も球界のレジェンドも超一流の者だけが知る領域にいることは確かだ。

 その白鵬をして、イチローが45歳まで現役を続けたことに「考えられない」と感服するばかり。今後の土俵人生へ向けて「頑張ります」と決意を口にした。