01~09年に米副大統領を務めたディック・チェイニーの半生を描いた。「ダークナイト」シリーズのバットマンで知られるクリスチャン・ベール。体重増減で役づくりするカメレオンぶりで有名だが、今回もすごかった。体重20キロ増、髪は脱毛、脱色。40代後半から60代のチェイニーには「どこにクリスチャン・ベールが?」と言うしかない。

外見の変身だけでない。20代ころのチェイニーのダメさ加減、権力ゲームに目覚めたころの30代、史上最低の副大統領、陰の大統領と呼ばれた60代以降、それぞれの年代で、内面がにじみ出ていて、彼がどう変わったのか、変わらなかったのかがよく分かった。

ベールをはじめ、ブッシュ大統領役のサム・ロックウェル、ラムズフェルド国防長官役のスティーブ・カレルらの再現度の高さは必見。チェイニーとブッシュの2人のシーンはいつまでも見ていたいくらいだ。

アダム・マッケイ監督がテンポ良くコミカルに描いているので、登場人物たちは愛らしく見えるし、役者たちの外見に注目してしまいがちだが、実はぞっとするような話だ。「理念は?」と聞くチェイニーを、ラムズフェルドが爆笑する場面に象徴されている。【小林千穂】

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