【西川結城のアドバンテージ】笑いながら放たれた言葉を思い出した。「そんなん、話が小さいですよ。日本のサッカーだけの話をしたって。もっと、デカい規模の話が俺の頭には常にあるから」

 約2年前、本田圭佑はこう言った。会話の主題は、日本サッカーの理想と現実…みたいなものだった。当時、バヒド・ハリルホジッチ監督のもとで、日本代表は迷走していた。本田は自分が選手という当事者であることは抜きにして客観的に日本サッカーを変えるならば、との視点でこう述べた。

「日本サッカーや代表だけを変えるのであれば、僕もそれに相応するポジションを今後目指す。例えばサッカー協会会長とか。意思決定ができる存在になれば、改革は手っ取り早い。もちろんその仕事は大事だと理解している。ただ、自分にとっては日本だけをどうするかという考えは、面白くない。今、世界中でサッカークラブの経営や育成などのプロジェクトをしているのもそれが理由。サッカーって、もっと規模の大きい話ができるんですよ。だから(日本国内の要職は)目指すことはない」

 先日、オーストラリア1部(Aリーグ)のメルボルン・ビクトリー退団を発表した。メキシコ1部パチューカに続いて単年契約を満了し、当地を去る。日本、欧州、中米、そして南半球。これまでのプレーの軌跡を追うだけでも、彼の言葉通り規模は大きい。「自分の家? 強いて言えばアース(地球)」。滑稽に聞こえるセリフも実動を見ればあながち間違っていない。

 再び欧州移籍を希望する話も聞こえてくる。と同時に本人はJリーグ復帰は否定した。移籍時期になると、本田の日本帰還の可能性が報道でも取り沙汰される。実際にオファーしたクラブも過去にはあったという。

 現役も晩年に差し掛かっていることは、本人も認める。来年に迫る東京五輪の出場を目指す。最後にして最大の輝き時になることを信じて、最低でもあと1年はプレーを続ける。そして、それが日本ではないことを、J帰還の可能性の知らせが飛び交うたびに「話が小さいですよ」という本田の声を思い出しながらかみ締める。

 最近あるインタビューで、全人類や宇宙規模の話を展開していた。相変わらずだった。自身が島国に収まることはない。ただ、本田は人の見立てを裏切るサプライズも好む。もしかしたら、大どんでん返しでJリーグ復帰? いや、やはりないだろう。

 ☆にしかわ・ゆうき 1981年生まれ。明治大卒。専門紙「EL GOLAZO」で名古屋を中心に本田圭佑らを取材。雑誌「Number」(文藝春秋)などに寄稿し、主な著書に「日本サッカー 頂点への道」(さくら舎)がある。