9日に亡くなった作家の野坂昭如さん(享年85)の告別式が12日、都内の自宅で行われ、親族や関係者約40人が参列した。

 午後0時過ぎに野坂さんの遺体を収めた棺が霊きゅう車に運ばれ、妻暘子さん、長女麻央さん、次女亜未さんが後に続いた。自宅からは野坂さんのコンサートの収録音声が流され、懐かしい歌声が周囲に響いていた。

 暘子さんが持っていた位牌(いはい)には野坂さんのフルネームが書き込まれていた。麻央さんが抱えていた遺影は70年代のものとみられ、帽子にサングラスの野坂さんがたばこをくわえるダンディーな姿だった。午後0時13分、霊きゅう車がクラクションを鳴らして出発。関係者の車列が続き、火葬場へ向かった。

 野坂さんを担当した出版関係の男性(62)によると、告別式は野坂さんが使っていた書斎で行われたという。暘子さんは「今までで一番いい顔をしているので、見ていってください」と参列者にあいさつ。棺の中をのぞくように促した。野坂さんは薄い紺色が入ったサングラスをかけて、黒の革ジャケットを着ていた。棺の中には原稿用紙、鉛筆、たばこの他、ラグビーチームを持っていたことから、赤色のラグビーシャツも入れられたという。

 この男性は「連載原稿を締め切りまでにもらったことは、ほとんどなかった。わがままな人だったけど、最後にいい笑顔を見られて良かった」と実感を込めた。