名優ロバート・レッドフォード(82)が俳優引退作と公言する作品。「明日に向って撃て!」(69年)「スティング」(73年)など数々の名作に出演してきたハリウッドの大スターが最後に選んだ役は、銀行強盗だった。

人を傷つけず、紳士的なスタイルで1980年代初頭から米国各地で銀行強盗を重ね、逮捕と脱獄を繰り返した実在の男フォレスト・タッカー。ポケットの拳銃を行員にチラリと見せるだけで現金を頂戴する。ウソみたいな話だが、なぜか行員たちが「紳士だった」と絶賛するほどだった。

描かれているのは銀行強盗だが、ユーモアがあり、映画全体の雰囲気は、ほっこりしている。80歳を超えたレッドフォードの顔には、縦横にシワが何本も走る。年輪のように深く刻まれたシワは役者人生の充実感を物語っているようだ。

映画が進むにつれ、生涯役者を貫いたレッドフォードと主人公が重なった。共演はケイシー・アフレック、トム・ウェイツら。デビッド・ロウリー監督。ファンにはたまらない仕掛けもある。過去作品の1シーンを思い出させるようなシーンも。最後までさっそうとして、心地よい余韻を残す。【松浦隆司】

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