1970、80年代の映画界をリードした角川春樹氏(77)が10年ぶりにメガホンを取ることになり、取材する機会があった。

「犬神家の一族」(76年)を皮切りにヒット作を連発した全盛期、93年のコカイン密輸事件、そして05年の「男たちの大和」プロデュースでの映画界復帰…これまでの取材経験からすれば、良くも悪しくも「豪腕」「強引」のイメージがついてまわったので、46歳下の元歌手、明日香夫人との間に生まれた6歳の息子にメロメロの様子にはちょっとした驚きがあった。

「今は子どもの行事が最優先ですね。『オヤジの会』を始め、あらゆる会に出ています。月の3分の1は子どものイベントに費やしています」

これまで5人の女性との間に6度の結婚歴があり、最初の3人の妻との間にそれぞれ1人ずつ子どもがいる。私生活でも「風雲児」だったわけだが、孫のような息子の話に目を細める様子は文字通りの好々爺(や)だった。

新作「みをつくし料理帖」(20年秋公開)の撮影を行うのがこの8月なのも「息子が夏休みだからねえ」。監督した過去7作には好んでとがった題材を選んできたが、今回は料理にまつわる人情話と、好みもすっかり丸くなった印象だ。

一方で、「埋もれた才能」を発掘する手腕は相変わらずだ。70年代には、「過去の人」となっていたミステリー作家、溝口正史にスポットを当て、映画化した「犬神家の一族」を皮切りに「見てから読むか、読んでから見るか」のCMで一大ブームを創出した。実は「みをつくし-」の原作者、高田郁さんもいわば春樹氏のプロデュースでベストセラー作家になっている。

「以前の出版社では高田さんの作品は初版500部だった。だけど、僕はその内容にいたく感動して1人で200部買ったんです。本人が200部買ったそうだから、世に100部しか出ていないわけですよ(笑い)。それがウチ(角川春樹事務所)で売るようになってから累計400万部まで伸びたんです」。

今回の映画では主演に「この世界の片隅に」(18年、TBS系)の松本穂香、共演に奈緒、中村獅童と個性派がそろった。「これが最後の監督作」と本人が明言したこともあって、過去の角川映画に出た大物俳優からの出演希望も少なくないという。

好々爺(や)になった風雲児の新作はいろんな意味で楽しみだ。【相原斎】