東京五輪プレ大会の柔道世界選手権第2日(26日、東京・日本武道館)、女子52キロ級で昨年女王の阿部詩(19=日体大)が圧倒的な強さで2連覇を達成した。準決勝では初対戦となったリオ五輪金メダルの強敵マイリンダ・ケルメンディ(28=コソボ)の変則的な攻めにも全く動じることなく一本勝ち。19歳が見せつけた“不動心”の秘密に迫った。

 昨年は5試合オール一本勝ちで優勝。今回も初戦の2回戦、3回戦と世界選手権連続一本勝ちを続けていたが、準々決勝は優勢勝ちとなり記録は「7」で途切れた。

 しかし準決勝ではケルメンディ相手に延長戦に入ってからの横四方固めで一本勝ち。決勝ではこれも初顔合わせとなったリオ五輪銅メダルのナタリア・クジュティナ(30=ロシア)にわずか30秒で伝家の宝刀、袖釣り込み腰を決めて偉業を達成した。詩は「去年とは違った喜び。連覇への不安やプレッシャーがある中での優勝なのですごくうれしい」とホッとした表情で語った。

 昨年18歳で初出場優勝を決め“最強の女子高生”と呼ばれたが、五輪女王ケルメンディが不在の中での快挙だった。そのため実力を斜めに見る向きもあり、五輪女王の変則柔道もあって初対戦を不安視する声があったのも事実だ。だが今回その女王に完全勝利を収めたことで、その実力は「ホンモノ」だったことを満天下に知らしめた。

 ケルメンディは左組みのパワー柔道を得意とする。相手の背中をつかんで、何もできないようにした上で仕留めるのが必殺の戦法だ。事実、準々決勝では昨年2位で2017年世界女王の志々目愛(25=了徳寺大職)がこのパターンで敗れた。

 だが詩は違った。背中をつかまれようが、意に介さず前へ出る。逆に焦ったケルメンディが右組みにチェンジするという、意表を突いた攻めを見せるも、構わず投げにいく。根負けした五輪女王は押さえ込まれると、観念したように抵抗するのをやめた。

 19歳のこの何事にも動じない強さはどこから来るのか。恩師の兵庫・夙川高校の松本純一郎監督(51)は本紙にその秘密をこう明かす。

「昔から(誰と当たろうが)特に対策を練らなかった。予想と違う技が来るのが勝負の世界ですし、違う技が来たら困りますからね」

 いわばブルース・リーの映画「燃えよドラゴン」で知られる「考えるな、感じろ」。詩はこの教えを忠実に守ったということだ。さらに松本監督は「寝技で一本を取れたのは成長。立ち技が無理なら寝技で、と臨機応変に戦えた」と詩の“超対応力”にも目を細めた。もちろん「まだ(11月のグランドスラム)大阪がある。大阪で(五輪の代表が)決まると思うので、今回は通過点」と恩師ならではの愛のムチを送るのも忘れなかった。

 世界選手権4度優勝の“元暴走王”小川直也氏(51)も「ケルメンディはもう完成しているが、詩さんはまだ伸びしろだらけ。差は開いていくばかりだから、このまま無敗で五輪も金メダルを取るだろう」とその実力を手放しで褒めたたえた。詩も世界選手権2連覇を達成しながら「オリンピックしか見ていない」ときっぱり。今回の戦いぶりで五輪代表争いに一歩どころか、二歩も三歩もリード。来夏まで本当に無敗のまま五輪の金メダルを手にしそうだ。