三谷幸喜監督(58)の真骨頂を味わえるコメディー作品。主人公は記憶をなくした史上最悪の総理大臣、黒田啓介。同役を演じる中井貴一(57)の悪態ぶりが秀逸だが、記憶をなくした後の“普通のおじさん”ぶりとの振り幅も楽しめる。コミカルとシリアス。中井の表現力が存分に発揮されている。

三谷監督は公開前イベントで「中井貴一の新たなる代表作にしたい。中井貴一を男にしようじゃありませんか!」と選挙応援演説さながらに訴えたが、そうなることは間違いない。

映画は娯楽。この単純な公式をあらためて実感できた。約2時間、スクリーンから目が離せない。至る所に笑いがあふれつつ、登場人物それぞれが抱える心情の変化が分かりやすく描かれている。

見終わった後、ほっこりした気分になれる。そこには三谷監督の技術が駆使されている。伏線の張り方、有名俳優をちょい役で使える豪華さもある。

米大統領役に木村佳乃を起用するセンスも三谷監督ならでは。妖艶なニュースキャスター役、有働由美子のメークにも注目だ。【川田和博】

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