WBA世界ミドル級王者の村田諒太(33=帝拳)がついに超ビッグマッチへと踏み出す。初防衛戦(23日、横浜アリーナ)で、同級8位スティーブン・バトラー(24=カナダ)に快勝。見届けた米トップランク社のボブ・アラムCEO(88)が“カネロ”サウル・アルバレス(29=メキシコ)、そしてゲンナジー・ゴロフキン(37=カザフスタン)と来年「五輪の前後に東京ドームでやらせたい」とぶち上げたのだ。世界的スーパースター相手のビッグプランを提示された村田は「君が代の心で戦う」ことを本紙に激白。その真意とは?

 試合後の記者会見で帝拳ジムとともに村田をプロモートするトップランク社のアラムCEOは来年のスケジュールについて、WBAのスーパーミドル級&ミドル級スーパー王者の“カネロ”アルバレスと、IBF世界ミドル級王者の「トリプルG」ことゴロフキンの2人の名前を挙げ、夏の東京五輪を挟んで両者と東京ドームで連戦させたい、との仰天構想を披露。

 これについて村田は会見で「WBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)がああいう盛り上がりをしたのは、王者同士のぶつかり合いだから。カジュアルファンを引きつけるならWBAのタイトルマッチでOKだけど、ナオちゃん(井上尚弥)がああいう試合をやって(王座を)統一して、そういうのが一つあるとファンはそこを求める。そういう声に応えていきたいという気持ちもある」と話した。

 今回のバトラー戦に向けた練習で村田は「調子が良ければ、カネロに勝てるぐらいのボクシングができる」(帝拳ジム・本田明彦会長)レベルにまで到達した。それだけにアルバレス戦やゴロフキン戦は決して“思い出づくり”ではない。では、勝負できる自信がついたということか? 本紙が会見後に単独直撃すると、村田はこう返答した。

「君が代の意味って、知ってますか?」

 さらに続けた。「苔(こけ)のむすまで、一人が皆のために生きる。集合体の中で、その人が何をできるか、ということなんです」

 その人、つまり村田は何をできるのか。その答えがアルバレスであり、ゴロフキンとの対戦だった。「勝てるから、とか勝てないとかで(試合を)やるんじゃなくて、皆が見たい試合をやるんです」(村田)

 勝った、倒したを優先的に考えるなら、それができる可能性の高い相手を選べばいい。だが年明けの1月に34歳となる村田に残されたボクサーとしての時間は、それほど長くはない。「だからそういう(安易に勝てそうな)試合をしている時間はない。いかに“ゴール”に向かっていくのかということなんです」。自身のその気持ちとファンの求めるもの。それが合致するものがアルバレスであり、ゴロフキンとの対戦ということだ。

 だからといって「レースをしているわけではないです」と強調するように、先月にWBSSを制した井上と“ビッグマッチ競争”に出るわけではない。「それぞれの道を進んでいる」村田も、ファンが求めるカードを実現させることで、期待に応えたいというわけだ。

 村田の知名度を上げたのは、言うまでもなく2012年ロンドン五輪での金メダル獲得。翌年8月25日にプロデビュー。その14日後(9月7日=日本時間8日)に東京五輪開催が決まった際には「それまでボクシングやってるなんて無理やぞと思ってたら、2020年もやってるんですね」と笑いながら話す。五輪で名を上げ、地元で五輪が開催されるタイミングでボクシング人生のフィナーレを迎えることには「僕らしくて、いいじゃないですか」とも付け加えた。

 その“最終章”では、金メダルに負けないぐらいに輝く勝利を挙げてくれることを誰もが期待している。

【ビッグ2の今後】アラムCEOは村田の次戦の時期を「来年5月」と話した。その相手として名前を挙げたミドル級の「ビッグ2」の今後はどうなのか。まずゴロフキンは3月に次戦を予定しているものの、相手はまだ決まっていない状況だ。

 一方のアルバレスは、例年だとメキシコで最も重要な祝日とされる「シンコ・デ・マヨ」(5月5日)前後に試合を行うことが多いが、こちらも来年については現段階では未定。アルバレスをプロモートする「ゴールデンボーイ・プロモーションズ」幹部でもあるロベルト・ディアス氏は、アラムCEOとともに村田の試合後の会見に同席し「すぐにでも(村田戦の)交渉を開始したい」と述べ、年明け以降に事態が進展する可能性に含みを持たせた。村田戦実現には、先月2日に2階級上のライトヘビー級で戦ったアルバレスがミドル級まで絞れるかということもカギになる。