東京五輪が来年夏までに1年程度延期になったことで、競技会場がある自治体に大きな影響が出ている。会場やボランティアの再確保など問題山積みで、知事が対応に追われるのは目に見えている。また来年夏の開催となれば、その前に知事選が開催される自治体もある。落選すれば五輪開催時、当事者ではいられなくなる可能性も。泣く人、笑う人の明暗がくっきりと分かれそうだ――。

 五輪延期決定で「男泣き」したいのは、千葉県の森田健作知事(70)だろう。

 千葉県ではレスリング、テコンドー、フェンシングが幕張メッセで行われるほか、一宮町の釣ヶ崎海岸でサーフィンの開催が予定されている。森田知事は3年前に3期目の当選を果たした際、開催自治体の長として五輪成功への尽力を誓っていたが…。

 25日、延期を受けて取材に応じた森田知事は「もう1回、今度は1年間というスパンがあるわけですから、みんながハッピーでみんなが喜んで、多くの人たちを応援できる、そういうオリンピック・パラリンピックを開くために『俺たち頑張ろうよ!』」と話した。延期に落胆する選手、戸惑う関係者に熱血エールを送ったわけだが、内心は穏やかではないはずだ。

「森田知事の任期は来年4月4日まで。五輪が夏開催なら千葉県のトップは別の人になってるでしょう。本当は4期目を狙いたいだろうが、とても選挙を戦える状況ではない」(永田町関係者)

 森田知事がミソをつけたのは昨年9月に千葉県を襲った台風15号への対応だ。同県は7万軒以上の住宅が損壊の被害に遭い、数週間に及ぶ大規模停電に陥ったが、これには森田知事の初動の遅れが問題視された。台風直撃の翌日に自宅へ戻ったり、甚大な被害が判明した後も都内に出掛け散髪していたなど、あきれた行動が次々と明るみに出て、危機管理意識の欠如を責められたのだ。

 釈明に追われた森田知事は給料の減額を表明し、昨年10月に同県を襲った台風19号への万全対応、今回の新型コロナウイルスへの電話相談窓口を24時間対応にするなど、必死に汚名を返上する姿勢を見せた。せめて今年夏に開催される五輪を花道に、来年勇退する道筋をたどりたかったはずだが、それもできなくなった。

 さらにタイミングが悪いことが24日に起きた。前述の台風15号をめぐる外部有識者による検証報告書が公表されたのだ。

 これによると「知事が公務外で災害対策本部や公舎を離れることは適切とはいえず、知事は災害に対して最適な対応がとれる態勢をとるべきであった」と断罪。再び対応の不手際が蒸し返された格好だ。

 森田知事に残されたチャンスは、遅くとも来年夏までとされる五輪が3月までに行われること。そうなれば知事のままでいられるが、その可能性は限りなく低いだろう。

 一方、五輪延期でも張り切っているのは、小池百合子東京都知事(67)。こちらは五輪前の7月5日投開票で都知事選が行われる。当初は自民党都連が小池氏の対抗馬を擁立する方向だった。そのため小池氏の再選は不透明だったが、新型コロナ禍で「争っている場合じゃない」と都連が折れた。つまり小池氏と“手打ち”したのだ。

「実際は対抗馬を都連が擁立できなかったからですが、これで小池氏はあと4年、都知事のイスに座れそう。険悪だった官邸、五輪組織委との関係も修復され、最近はまたメディアの注目が集まった。新型コロナ対策ではロックダウン(都市封鎖)も辞さずと発言するなど、すっかりスイッチが入っていますよ」(自民党関係者)

 25日の会見では「オーバーシュート(爆発的患者急増)を防ぐ重大局面」と強調し、今週末は不要不急の外出を避けるよう要請した小池氏。ロックダウンについては、今すぐに実施する状況ではないとの認識を示し、判断基準を「有識者などの助言をもらいながら、ある程度は政治的判断も必要になる」とした。

「五輪の延期が決まった後の外出自粛要請は『遅すぎる』との批判もありそう」(同)との声もあるが、この難局をうまく乗り切れば、来年の五輪も「東京都のリーダー」として迎えられそうだ。