「ニキータ」からちょうど30年。リュック・ベッソン監督が再びすご腕の女殺し屋をヒロインに据えた。

4月の作品が公開延期となる中、5月の予定から注目作「ANNA アナ」(8日公開)を紹介する。

麻薬中毒の自堕落な生活→免罪と引き換えに軍事訓練→政府の裏仕事を引き受ける殺し屋に-という図式は出世作「ニキータ」と同じだが、ところどころに現代風の味付けがほどこされている。

主演のサッシャ・ルスはロシア出身。13歳から活躍するトップモデルだ。学生時代にバレエを習っていた「ニキータ」のアンヌ・パリロー同様にスリムな体形。ベッソン監督の好みなのだろう。ただし、くすんだ髪色のショートカットが印象的だったパリローに対して、こちらは肩までのブロンドである。

そんな外見と本職からか、「アナ」はモデルを隠れみのにしているという設定で、劇中にはマンガ喫茶のように割り振られた「モデル部屋」が登場する。ニューヨークの売り出し中のモデルたちの生活風景は以前ドキュメンタリーで見たことがある。この作品の描写は現実に近く、生々しい。

男主演のアクションでは現実離れした演出を持ち込むベッソン監督だが、女主演では「ニキータ」同様にリアルな生活感を大切にしているようだ。

ルスは撮影前に1年間の特訓を受けたそうで、数十人の屈強な男を相手にした大立ち回りなど、アクション・シーンは「ニキータ」をひと回り大きくした感がある。細い腕や脚にも形のいい筋肉が付いていてそんな動きを裏打ちする。

KGBにスカウトされ、「戦闘マシン」に鍛え上げられたアナは、宿敵CIAのワナにはめられて、寝返りを強要される。最強の2大組織の板挟みから彼女はどうやって生き延びるのか。ストーリー展開のスケールも「ニキータ」よりひと回り大きい。

「ニキータ」には、少女の成長物語が時系列でつづられたが、今回は何度か時間を巻き戻してタネ明かしをする複雑な構成で、エンターテインメント性も高い。

KGBの教官役にはヘレン・ミレンが登場。その変身ぶりには「トッツィー」感もあって、最初はダスティン・ホフマンが女装しているのかと思ったほどだ。「クイーン」以来、この人の成り切り演技には毎度驚かされる。

それもこれもベッソン監督のこだわりの結果に違いない。かつて「『ニキータ』は自分を壊して飛び出した作品」と語っていた。その流れをくむ今作には監督の格別な思い入れを感じる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)