今回は俳優の中村梅雀(64)の登場です。

出演を予定した舞台が初日直前に公演中止となり、精神的にも大きなダメージを受けた一方で、自粛でぽっかりとできた時間を有意義に過ごすことの大切さを語ってくれました。

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出演予定だった舞台「新 陽だまりの樹」は、4月3日の初日を延期し、その後、公演そのものが中止となりました。3月初めに稽古が始まり、もうお客様にお見せ出来るレベルに仕上がっていただけに、中止が決まった時は悲しくて、精神的、肉体的なダメージが大きかった。稽古中も「ダメかもしれない」「どこかでできるかな」という不安と期待を抱えながら、必死に作り上げてきました。原作の手塚治虫さんの祖父である蘭方医手塚良庵が僕の役ですが、政治が混沌(こんとん)とし、疫病も流行する幕末の物語で、今の状況にも通じる芝居です。いつか、この芝居を見せられる機会があったらいいなと思うし、見る方に力を与えられる芝居になっていると思います。

舞台が中止となり、出演するテレビ朝日系のドラマ「特捜9」(水曜午後9時)の収録も止まっているので、今はひたすら家にいます。ただ、家にくすぶって暗いニュースばかり見ているのでなく、忙しくて今まで出来なかったことをしようと思っています。家族との時間を密に過ごす中で家族の絆を見つめ直したり、新しいことを始める機会と思えばいいんじゃないでしょうか。

4歳の娘がいますが、普段は家に帰っても寝ているし、土日は僕が仕事の時が多かった。だから、今はずっと一緒にいるので、甘えるだけ、甘えさせています。一緒にクッキー作りをしたり、天井に北斗七星やオリオン座などの星座をはりつけて、楽しんだりしています。僕は俳優以外に音楽もやっていて、家に40本以上のベースやギターがあるんですが、忙しくてしばらく触れていないものも多かった。ギターがかわいそうだから、1つ1つ取り出して弾いています。

僕は生きる上で「楽しい」「うれしい」「おいしい」と感じることが大事じゃないかと思っています。時間がある分、よく睡眠時間をとって、家の中でテレビ体操でもいいから運動して、そして、おいしいものを食べる。こういう時だからこそ、「きっとうまくいくよ」と、前向きにポジティブに考えてほしい。僕は人の心を救うのが演劇だと思っているので、早く皆さんを元気にする仕事をしたいですね。(構成・林尚之)

◆中村梅雀(なかむら・ばいじゃく)1955年(昭30)12月12日、東京生まれ。祖父は前進座創設の一員の歌舞伎俳優中村翫右衛門で、父は中村梅之助。65年に初舞台を踏み、80年に2代目梅雀を襲名。大河ドラマ「八代将軍吉宗」の家重役で注目され、テレビ東京系「信濃のコロンボ」、テレビ朝日系「赤かぶ検事」などに主演し、映画「釣りバカ日誌」にレギュラー出演した。07年に前進座を退団。フリーで活躍中。