映画「散歩する侵略者」(2017年)などで知られる黒沢清監督が演出し、8Kスーパーハイビジョンカメラで撮影されたNHKの特集ドラマ「スパイの妻」が完成し、BS8Kで6月6日午後2時から放送されることが分かった。1940年代の神戸を舞台に、戦争という時代の大きなうねりに翻弄(ほんろう)されながらも、自らの信念と愛を貫き通そうとする女性の姿を描く、ラブサスペンス。主演は黒沢監督とは3度目のタッグとなる女優の蒼井優さんで、主人公の夫を高橋一生さんが演じる。
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主人公・福原聡子役の蒼井さんは、「この時代の女性を演じるのは今回が初めてだったのですが、思い描いたところに自分が行けているのか、どこか感覚が凝り固まっているのではないか、と常に自分を疑いながらの撮影でした。また、黒沢監督は、立ち位置と動きを決めてくださって、そこからどうするかは、演じる側の俳優に委ねられるため、終始『正解は何だろう?』と思いながら演じていました。正解を当てにいくというよりは、不正解を知っていくことで役を形作っていくことができたように思います」と振り返っている。
脚本は、映画「寝ても覚めても」(2018年)の濱口竜介監督が、黒沢監督、野原位さんと共同で執筆。1940年、太平洋戦争前夜の神戸。福原聡子(蒼井さん)は、満州へ赴いていた夫・優作(高橋さん)の帰りを待ちわびていた。ところが帰国後、幼なじみの憲兵・津森泰治(東出昌大さん)から呼び出され、夫が満州から連れ帰った女の死を告げられる。嫉妬心に駆られた聡子は、夫の行動を疑うなかで、彼が持ち帰った重大な秘密を目にしてしまう。かの地で一体、何があったのか。真実を知ってしまった聡子は驚きの行動に出る……。
今回、黒沢監督作品に初めて参加した高橋さんは「監督の世界観は非常に明確でしたので、動きの指示や細かな機微において、提示されたものの中でどれだけのことができるのか、楽しみながら取り組むことができました」と明かす。
また「特に、この時代の人間を演じるならではの、現代的な口調ではないせりふ群を、どう解釈して出力するかという作業は、個人的にも面白い体験でした」と話していて、「撮影終盤には、大掛かりでクラシックなオープンセットを前に、100人以上のエキストラの皆さんが行き交う中で、1カットの非常に長いお芝居をやらせていただきましたが、各部署のスタッフの方々が動いていることを感じてここに参加させていただいていることの感謝と興奮がありました。そして、蒼井さんはお芝居で会話ができる方なので、とても安心して刺激的な経験ができたと思っています」と語っている。
黒沢監督は「過ぎ去った時代がまとう抽象性と、カメラが切り取る生身の人間の実在感とをどうやって両立させるのか、それは最初至難の業に思えました。しかし結果は素晴らしかった。何より主演俳優2人がこん身の演技でこの時代のリアリティーを体現してくれたこと、そして各スタッフたちがそれを支え、超濃密でどこか神秘的な8K映像が見る者をたちまち1940年代の日本へといざなってくれたこと、全てが最高の形で結びつきました。このような幸運な経験は私の長いキャリアの中でも初めてのことです」とコメントを寄せた。
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