【球界平成裏面史(39) 伊良部泥酔暴行ハシゴ事件の巻(2)】阪神球団から厳重注意&罰金30万円の処分を科された伊良部秀輝投手の「泥酔暴行事件」。発生現場の沖縄・石川市のスナック「Y」のママや関係者の証言で、泥酔状態の伊良部が20歳代男性客の頬に張り手をお見舞いし、その後通報され警察に呼び出されたことが判明したが、そこに至る間にもう一つ“蛮行”を犯していた。

「Y」を追い出された伊良部はその後も飲み屋をハシゴ。「Y」の一件から1時間後の午前4時ごろ、今度は引き連れていた友人の一人だった40代の女性の頬を平手打ちした――というものだった。場所は同じ石川市内のスナック「O」の付近とみられ、同店のママが叩かれた女性と知り合いだったことから発覚した。まさに聞き捨てならない話…。“特ダネ”にするには十分だ。当然、「O」に出向くとママは取材に困惑しながらも「どこでかはハッキリしないんですが『伊良部さんに殴られた』と言って泣いていたのは確かです。顔は腫れたりはしてませんから何かの拍子だったのかも…」と証言した。

 記者は殴られたとされる女性が働く居酒屋にも出向いたが、あいにく休養…。「O」のママに電話で連絡を取ってもらったところ、事態を重く見たのか、直接の取材を拒否。「O」のママを通じて「もうその件は何も言いたくありません。ノーコメントです」とだけ話したが、暴力を受けたことは否定しなかった。

 それにしても伊良部は飲む→殴る→また飲む→また殴る…と暴行まで“ハシゴ”したことになる。このことを球団幹部に取材すると「女性の一件は聞いている。伊良部が帰ろうとしている時、女性に呼び止められ、そこで腕を振り払おうとしたところ、手が(頬に)当たっただけ。本人も『殴ってはいない』と言うし、球団としては問題視していない」と明かしたが、後に球団が被害者の女性に謝罪して“事なき”を得ていたことが判明している。

 当時、伊良部は球団を通じて「大事なキャンプ期間中、門限を破り迷惑を掛けました。風邪をひいて熱まで出して、どのように取られても仕方ありません」と反省コメントを残した。だが、事件当日、なぜ、そこまで酒を飲む必要があったのか。記事は「泥酔乱闘事件新事実 伊良部女性殴打騒動」の見出しで1面掲載となったが、今も肝心の「理由」がわからないから悔しい。

 この事件を起こした平成16年(2004年)、伊良部は3試合に登板しただけでオフに解雇され、翌05年に最初の現役引退を表明。米国でチェーンのうどん店を開業する傍ら、09年に米独立リーグのロングビーチ・アーマダで現役復帰し、同年8月に四国IL・高知に入団するも10年に再び引退した。引退中の08年は大阪市のバーで暴行事件を起こし現行犯で逮捕、10年は米国で飲酒運転を犯してまた逮捕…とトラブルも少なくなかった。

 そして11年7月27日、希代の「問題児」は米ロサンゼルス近郊の自宅で首をつった状態で死亡しているのが発見される。体内からは大量のアルコールが検出されており、背景には「事業で共同経営者との金銭トラブルがあった」「妻子と別居状態だった」から「末期の胃がんだった」など様々な説が浮上した。伊良部の自死は当時の阪神ナインにとっても衝撃は大きく「信じられない…。見かけの大きな体の通り、頼れる投手だった」(金本)、「野球小僧でおちゃめな面がある人。世間が持っているイメージと違う」(桧山)など、誰もが良き“素顔”の持ち主として悼んだ。

 本当はいいやつ…。しかし、記者はそのまた奥の「素顔」はどうだったのか、と思う。死に急いだ42年の人生に何があったのか。痛恨の取材不足…。今となってはもう遅い。