NHK朝の連続テレビ小説「エール」のモデルである作曲家・古関裕而氏が一躍、クローズアップされています。民放でも特番が組まれ、アルバムや書籍も数多く発売されています。そんなブームの中、長男の正裕氏(73)に思いを聞きました。【笹森文彦】

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「エール」で古関氏は古山裕一(窪田正孝)、妻の金子さんは音(二階堂ふみ)として登場する。

正裕氏 情熱的で社交性のあった母はまあまあですが、父はもの静かでしたけど、あんなにナイーブじゃなかった(笑い)。プレッシャーには非常に強い性格でしたから。

番組は現在、新型コロナウイルスの影響で放送休止となっている。2度目の東京五輪年であることなどから、前回の行進曲を作曲した古関氏がモデルに選ばれたが、五輪は延期。古関氏が手掛けた大会歌「栄冠は君に輝く」の夏の甲子園も中止となった。

正裕氏 歴史に残るパンデミックス(世界的大流行)ですから、仕方ないと思います。ただ、こういう逆境で、古関裕而の曲が皆さんにエールを送るというような形で使われたら、とても光栄なことです。

番組は戦前で休止し、戦中戦後はこれからとなる。古関氏は「露営の歌」「暁に祈る」「若鷲の歌」など戦時歌謡も多数作曲した。

正裕氏 家族に戦争の話はしなかった。ただ(慰問などで)実際に戦地に行って兵士の気持ちになったら、イケイケドンドンのメロディーは書けないと自伝にあります。庶民の1人として、庶民感情を大事に作曲していたと思います。

古関氏の主な戦時歌謡は短調だった。明るい長調に対し、短調は暗い響きとなる。士気高揚を求める戦時歌謡には合わない。

正裕氏 歌詞を抜いて聴いたら、悲壮感あふれる勇ましさというようなメロディーなんです。父が庶民の側にいたからです。

父の偉大さをますます意識するようになった。

正裕氏 ドラマを通じ、若い人に、聴いて歌い継いでもらえる機会をいただいたことがうれしい。父もそう思っているでしょう。

◆古関正裕(こせき・まさひろ)1946年(昭21)、東京都生まれ。早大理工学部卒。在学中、初期のグループサウンズ「ヴィレッジ・シンガーズ」でキーボード担当。卒業後、日本経済新聞社に入社。09年に古関裕而生誕100年記念CD全集の企画・監修で、日本レコード大賞企画賞を受賞。13年から歌手の鈴木聖子と音楽ユニット「喜多三」で父の作品を披露している。著書に「君はるか 古関裕而と金子の恋」(集英社インターナショナル)などがある。