先日のコラムでも触れたが、芸能界では昨年末あたりから、いわゆる独立が続いている。

再度、列記してみる。

安田美沙子、忽那汐里、伊原剛志、草刈民代、小雪、栗山千明、ヨンア、TKO木下隆之、岡田結実、米倉涼子、長谷川潤、中居正広、柴咲コウ、原千晶、有森也実、菊池桃子、神田うの、ローラ、高橋優、川崎麻世…。

仕事があまりなく事務所から切られたというよりも、タレント側が自ら巣立ったとみられるケースがほとんどだ。

先輩記者からの伝承によれば、その昔、大手芸能事務所からの独立には、いわゆる多額の手切れ金が必要だったらしい。日本の芸能界で仕事をこなすには、事務所は不可欠というよりは、なくてはならない存在だからなのだろう。これも古い話で恐縮だが、日本テレビが「スター誕生」をスタートさせたのは、その当時の大手芸能事務所の歌手に頼らない番組作りのためだったことは広く知られている。

話はそれたが、タレントが事務所を独立するには、それ相当の覚悟を求められる。そんな日本の芸能界だが、潮目が変わったのは、公正取引委員会が動きだしたことだった。契約終了後のタレントの芸能活動を芸能事務所が不当に制限するのは独占禁止法に違反する、との見解をまとめることに。この見解が、昨今の独立を後押ししているようだ。

ただ、独禁法違反というと大ごとだが、「不当に制限」という文言は抽象的だ。不当でなければ問題ないとも取れるし、何が、不当かも難しい。大手芸能事務所側とテレビ局のキャスティングを握る人物との関係など、周囲からはなかなか見えてこない。

先日の手越祐也の会見でも、事務所を独立すると、レギュラー番組も降板するという事実に、記者から質問が飛んだ。だが、手越の答えは、仕方がないというトーンだった。質問した記者は、事務所を辞めると、なぜ、テレビ番組のレギュラーを降板させられるのか疑問だ、という答えを導き出したかったとみられる。でも、自由奔放な手越でさえ、長年の芸能界のおきてというかルールを自認していることが、今の日本の芸能界を物語っている。

とはいえ、独立したからといって、仕事が順調にいくとは限らない。活躍できるメディアも増え、YouTubeや、各種SNSを使えばうまくいくという思惑があるのだろう。ただ、それはセルフマネジメントができるという前提があってのこと。タレントに才能や個性があっても、タイミングよく仕事に結び付けられなければ、マネタイズにはつながらない。

それと、芸能事務所には目に見えない仕事が多々ある。例えば、タレントがドラマや舞台に出れば、差し入れなど、共演者やスタッフへのケアも大切だ。タレントが世話になっている人が舞台に出れば生花の1つも送るのが礼儀だろう。そういった、陰に隠れた、そのタレントのための仕事というのも、独立して初めて知ることが多い。さらに、仕事のための資料集めや、見に行かねばならない舞台のチケットの手配など、マネジメント側の仕事は多岐にわたる。

個人的には、独立はしなくても、自身の売り上げと、自身にかかる経費の透明化を求めることはできると思う。最初からスターだったわけではなく、二人三脚で売れてきたことを思えば、事務所への恩義もあるだろう。そのあたりのバランス感覚をもって冷静に話し合えさえすれば、溝が深まることもそれほどないとは思うのだが…。【竹村章】