異例のシーズン中人事異動の背景とは――。巨人は7月31日、二岡智宏三軍総合コーチ(44)の三軍監督就任を発表。現三軍監督の井上真二氏(54)をファーム・ディレクター職とすることを併せて公表した。一見すると目玉は二岡コーチの三軍監督就任だが、実はこの人事の〝キモ〟は井上氏の方。今秋にも断行必至と言われる「大量リストラ」への布石ではとの見方がもっぱらだ。

 開幕早々、2件のトレードを成立させた、原〝全権監督〟だが、組織改革も異例のスピード感を見せた。球団は1日付で井上三軍監督を空席のファーム・ディレクターに、二岡コーチが三軍監督にそれぞれ就任することを発表した。

 現役時代にスター選手だった二岡三軍監督誕生が目を引くが、大塚淳弘球団副代表編成担当は「原監督とも相談した。(目的は)やっぱり若手、育成強化。二岡ありきじゃない。ファーム・ディレクターを先に誰にするかというのがあった」と断言すると、その意図についてこう続けた。

「強化は獲ること育てること。もうひとつ大事なのは『切る』こと。(選手の)伸びシロは僕らは分からない。今まで何回も失敗している。ダメなんじゃないかという選手が活躍するケースも多い。そういうのが一番分かるのは井上じゃないか」

「失敗」とはどういうことなのか。これまで巨人はFAの人的補償で一岡(広島)、平良(DeNA)、トレードで公文、大田(ともに日本ハム)らを放出したが、それぞれ主力として活躍中。もちろん環境が変わったことで選手が力を発揮した部分もあるものの、結果的に見切りを間違った形となっている。

 同じテツを踏まないためには選手の潜在能力を見抜く〝目利き役〟が必要となるが「切る」という作業をこれほど重要視する背景には、もう一つの事情がある。それは今秋にも断行されるであろう、二軍でくすぶる若手、中堅の大量リストラだ。

 昨オフの巨人では、日本人の支配下選手の戦力外はわずか2人と先送りされ、7月26日の田中豊の昇格で現在69人とパンパンの状態。ドラフトでは2年連続で支配下6選手を指名しており「シーズンの理想は67人」(球団関係者)との言葉に従えば、最低9人はドラフト前にクビを宣告されることになる。トライアウト組からの補強も考えれば、その総数は2桁に達する可能性もある。

 数字上の事だけではない。それを象徴しているのが昨年、阿部二軍監督が言い放った言葉だ。20代後半で一、二軍を行き来する中堅選手や、不調でファームに降格した実績組に対する扱いについて、本紙にこう語っていた。

「(二軍戦に出場する)チャンスは少ない。一軍に行きたければ、数少ないチャンスで結果を残してくれと。試合に出たいなら『三軍に行ってくれ』って言うよ。それぐらい徹底しないと(若手は)育たないから」。伸びしろのある、可能性を秘めた若手を育てるには〝中途半端〟な選手はいらない、ということだ。

 大塚副代表は井上氏について「スカウト、一、二軍のコーチ、三軍監督をやっていて『切る』というのが一番分かる人間は井上。選手の一生がかかる。井上は(現役時代)将来の4番候補と言われていて頭にデッドボールが当たっていろいろ苦労した。一番、ふさわしいんじゃないか」と付け加えた。損をせずクビを切り、血を入れ替える――。井上氏はその〝介錯人〟に選ばれた格好だ。

 首位を快走する原巨人だが、悲願の連覇、日本一奪回を達成しても、待っているのは厳しい秋となりそうだ。