巨人・岩隈久志投手(39)が23日、東京都内で現役引退会見を開いた。同席した原辰徳監督(62)がねぎらいの言葉とともに披露したのは、8月のある日、東京ドームでのエピソード。シートバッティングで投じた渾身の1球により右腕の肩は悲鳴を上げ、指揮官も覚悟を固めた経緯が明かされたが、岩隈本人もまた自らの引き際を悟った瞬間だった。

 今年ダメなら…の思いはあった。ただ岩隈自身、なかなか踏ん切りをつけられずにいた。

「とにかく1年、1年が勝負の中で去年一軍で投げられなくて。二軍では何とか兆しが見えてきた部分もあったので、今年が勝負だった。その今年、勝負をかける中で状態がいい日もあれば悪い日もあったり、自分の中ではコロナの影響もあって開幕も遅れたりした、そういう時間ももらっていたので、何とか早く状態を良くして一軍のマウンドに上がりたいという思いが強い中で、それでも良かったり悪かったりの…なかなか進まずに時間が進んでいってしまったっていう…」

 自分が前に進んでいるのか、後退しているのかが見えない。そんな時に原監督の声がかかった。

「原監督からも『実際、どういうボールを今投げられているのか見れていないから、見てみたい』ということで、一軍でシート打撃をという話をいただきました。その時、僕自身もやっぱりここで勝負をかけなきゃいけない。今まで時間をたくさんもらっていたので、なんとかここで次のステップが、兆しが見えるように自分の中でも勝負しようと思って、上がったマウンドだったので」

 ここまで岩隈の調整は慎重を期し行われていたが、一方で自らの現在地を見失っていた。そんな中、指揮官のひと声で決行された、東京ドームでのシート打撃。しかし、その1球が無情にも自身の〝本当の状態〟を知らされる結果となった。

「その1球が、僕の今できる限りのことをやろうと思ったその…その集中して全力で行った1球だったので、その1球で体力的な部分の限界も含めた意味での引退を考えましたし、投げた時にはムチャクチャ痛かったです」

 最後にそう言って笑いを誘った岩隈。その表情に悔いは感じられない。「今はもう、凄くスッキリしています」の言葉は本当だろう。東京ドームのマウンドでスポットライトを浴びることはなかったが、21年の輝かしい足跡が色あせることはない。