田中裕子(65)が6日、都内で行われた主演映画「おらおらでひとりいぐも」(沖田修一監督)初日舞台あいさつに登壇した。14年3月1日の「家路」初日以来、6年半ぶりとなる映画の舞台あいさつで、コロナ禍の中、足を運んだ観客に感謝。「映画館で久しぶりに映画でも見ようかなぁって思ってくれる人がいたら『待ってます、みんなで』って伝えてください」と伝え、目を潤ませた。

全席販売された客席を何度も見上げる田中の目に、うっすら光るものがあった。「まだまだ世の中が大変な中、映画館に見に来て足を運んでくださってありがとうございます」。感謝の言葉が口をついて出た。

05年7月公開の「いつか読書する日」以来15年ぶりの主演映画で、東京オリンピックが開催された1964年(昭39)に上京、結婚し55年後、夫に突然先立たれた75歳の女性を演じた。孤独な独り暮らしの中、浜田岳(32)青木崇高(40)宮藤官九郎(50)が演じる内心の声“寂しさ”と向き合いながら、日々の生活に楽しさを見いだす役どころだ。演じた際の白髪から一転、黒髪に黒いジャケット、ジーパン姿で登壇。「この映画は想像を超えてポップです。見終わって、ちょっとでもはじけてもらえたら幸せです」と笑った。

14年9月、17年3月にドラマの会見に出たことはあったが、久々に直に向き合う観客に思いを吐露した。

「1日も早く、気兼ねなく映画館で映画を見られる日、肩をぶつけ合ってコンサートを聴きに行ける日、お手洗いに行くにもはばかられるようなちっちゃな小屋で、息を潜めて芝居を見られる日が来るように心から祈ります。皆さん、お元気でいらしてくださいね」

エンターテインメントが不要不急と言われることもある中、作り手として胸の奥で思い続けた願いを吐露した田中は、客席に向かって一礼して舞台を後にした。【村上幸将】

○…田中が演じる女性の脳内の声と、昭和時代の若い頃を演じた蒼井優(35)は「家族のこと、自分の過去、これから…こんなに自分の人生と合わせながら撮影したのは初めて」と感慨深げに語った。自身の撮影がなくても現場に足を運び、田中の視界に入らないように演技を観察したといい「田中さんと同じ役をやらせていただく機会は本当にない。一緒にお仕事をさせていただけるなんて夢のよう」と語った。田中は「どこにいるのよ? という片隅に、照明さんか、というくらいの感じで、そっといてくれていて」と蒼井に感謝した。