新型コロナウイルス禍が、歴史ある音楽文化にも大打撃を与えている。全国にあるシャンソンの生歌を聴ける「シャンソニエ」が経営危機に陥り、すでに複数が閉店に追い込まれた。シャンソニエが抱える問題に、実態とズレた政府の振り分けが追い打ちをかけた形だ。出演者からは“ライブハウス扱い”を見直すよう求める声が上がっている。

シャンソンの生歌を聴きながら、静かにグラスを傾ける――。そんな大人の楽しみ方ができる全国のシャンソニエが大ピンチに陥っている。新型コロナ禍で京都の老舗「巴里野郎」や、東京・荻窪の「嗣(つぎ)」などがすでに閉店。残っている店も経営は苦しい。

 1965年に東京・銀座に開業した日本最古の現役シャンソニエ「蛙たち」は、緊急事態宣言下で2か月半休業し、6月16日から座席を半分以下の25席にして営業を再開した。ステージと客席には飛沫防止用の透明パーティションを設置。入店時の手足裏消毒と検温、体調などを問うアンケートを実施し、店内ではマスク着用を要請するなど、徹底した感染対策を行っている。

 座席を減らした分、収入が減るため、常連客らに支援をお願いし、家賃などの固定費に充てた。それで一時的にしのぐことはできたが、減らした客席が満席にならない日もあり、先行きは楽観できない。背景には客層の“高齢化問題”もあるという。

 同店の出演歌手で、10月に作曲家・林哲司氏プロデュースのファーストアルバム「Le Premier Pas」を発売した松城ゆきのによれば「シャンソンがお好きなお客様は60~80代の方が多く、ご本人がお店に行こうとしても家族に止められるそうです。正直、毎日25席が埋まっても、お店としてはしんどいんです」。

 そこで配信も始めたが、「歌う私たちも、配信するお店も、視聴するお客様も手探り。特にご高齢のお客様にとって、(視聴)設定するのは簡単ではありませんから…」。高齢化問題の影響が顕著に表れてしまったのだ。

 さらに、政府によるイベント開催制限の振り分けも足を引っ張る。

「9月からクラシックなどは『大声での歓声・声援等がない』として収容率100%に戻りました。シャンソニエは生演奏を静かに楽しんでいただく場所で、騒ぐお客様はいらっしゃいません。減らした座席に座っているから密にもならない。なのに『大声での歓声・声援等が想定される』側に振り分けられ、収容率は50%まで。出演者はみんな納得していませんし、悔しい。せめてクラシックと同じ枠にしてほしい」(松城)

 50%のままでは客の心理的障壁も拭えない。

 実態と関係なく雑に振り分けられた結果、日本のシャンソニエは存亡の危機に陥ろうとしている。歌手を育て、抱えるシャンソニエがなくなれば、日本からシャンソン文化が消滅することになる。現在の制限は今月末まで。12月以降については改めて検討されるというが、松城の訴えは政府に届くか。注目される。