活火山のマグマのようにフツフツと怒りが沸き上がってきているようでした。「潔くないんだよな」。歯に衣(きぬ)着せぬ発言で知られる井筒和幸監督(67)が、ぴしゃりと言い放ちました。

8年ぶりの新作映画「無頼(ぶらい)」(12日から全国順次公開)の封切り直前のインタビュー終盤、安倍晋三前首相側が「桜を見る会」前日の夕食会の費用を一部負担していた問題に話題が及ぶと、「正直に潔くせえよ」。メガネの奥の眼光は鋭く、投げつけるように言いました。口ぶりだけは潔く、まったく責任を取らない「潔さ」。井筒監督は新作について「閉塞(へいそく)する社会へのアンチテーゼ」と熱弁しました。

「トランプも潔くないけど、どいつもこいつも独裁者は潔くないね。みんな、潔くないわ。男らしくない」

自然と口調に熱が帯びる井筒監督の新作はヤクザ映画です。「無頼」は昭和のアウトローが主人公。極貧の中、道を外れるしか生きる術がなかった主人公・井藤正治をEXILE松本利夫が演じます。社会から頭を抑えつけられ、貧困や出自ゆえに社会からあぶれた者たちが織りなす群像活劇。146分の中には物事の核心を突く、地べたをはう者たちの「生きた言葉」がちりばめられています。

「世間? 俺には、そんなもんないんよ」

「井藤よ、『ゴッドファーザー』って観たか?」

「カタギだった三男坊が腹くくって親の仇(かたき)を討つとこ、いいですね」

「男の仕事で命が賭けられるのは、ヤクザしかないからな」

奈良高在学中から映画製作を始め、75年に自主ピンク映画「行く行くマイトガイ・性春の悶々」で監督デビュー。「ガキ帝国」(81年)では大阪・ミナミを闊歩(かっぽ)する少年院を出た少年たち、「パッチギ!」(05年)では在日朝鮮人社会をテーマに、貧困や差別、孤立を描き、世間に強烈な「頭突き」を浴びせてきました。

「僕が撮ってきたのは『ガキ帝国』以来、社会からはじき飛ばされた者、社会からあぶれた者、はみ出し者ばかり。今回はあぶれ者を通して“欲望の昭和史”が描きたかった」。そう回顧する井筒監督のメガネの奥の目はやさしい。

主人公は仲間とともに組を構え、武闘派としてのし上がっていきます。戦後の復興期から高度経済成長期、バブル崩壊と、めまぐるしく動いた昭和という時代が背景です。

「欲望の昭和史、欲望の資本主義。僕も当然、経験してきた。僕らも欲望のままに自分の夢を探した」。そう話す井筒監督は、令和の時代をどう見ているのでしょうか?

「間違いなく閉塞(へいそく)している。バブル崩壊以降、経済はええかげんだし、自分たちの企業がなんとか生き残るためには、国内でモノをつくることをやめて、海外へ生産を移した。じり貧で生きてきた30年。正規雇用ではなく非正規雇用が増え、どんどんきっていく」

昭和を知らない若者も増えました。

「昭和という時代は、いろいろと加減をしながら、横のつながりも気にしながら、欲を追った。昭和はバランスがあった。ちょっと気にしながらでも、助け合ってきた。いまは欲望のままに生きているヤツが多い。欲のないヤツは欲もない代わりに、人のことも思っていない。」

若者へのメッセージも込めました。

「いま若い子は欲がない。何か食べに行こか? 『牛丼でええですよ』。牛丼はおいしいけど、『よし、明日、ばりっとスーツ着て、あそこいったるど』。そんな欲がない。いまの社会は、若者は欲望の目をつまれ、夢の芽をつまれる」

これまでの作品と同様、社会への強烈な「頭突き」を浴びせたい。

「閉塞(へいそく)が漂う社会に対するアンチテーゼやね。ちょっとタイムトリップして、もうちょっとね、『欲を持って生きろや!』って若い子に言うてやりたいな」。

67歳。井筒監督の全身からはエネルギーがあふれていました。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)