新型コロナウイルス禍を乗り越え、令和で初めて日本人のボクシング世界チャンピオンとなったのが、WBO世界フライ級王者の中谷潤人(22=M・T)だ。15歳で米国に渡り、武者修行を経験した異色のキャリアの持ち主は、11月にジーメル・マグラモ(フィリピン)を鮮烈なKOで倒して王座奪取。本紙の単独インタビューに応じ、人懐っこい笑顔とは裏腹な壮大な野望から“改名エピソード”まで、その素顔を明かした。

 ――新型コロナウイルス禍で4、8月と2度も流れた末に迎えた難しい世界戦だった

 中谷 ファンの応援が原動力となり、周囲のサポートもあっていいコンディションで臨めた。2回目の延期の時は、体重をかなり落としていたので厳しかったが、新潟への家族旅行でリフレッシュできた。また、その後(WBC世界ライトフライ級王者の)拳四朗選手(28=BMB)と2回スパーリングをやって、1回目にボコボコにやられて。それでしっかりスイッチを入れてもらえた。

 ――以前には1階級上のスーパーフライ級が気になると話していた

 中谷(世界トップに)日本人選手もいる階級なんで。ただ、まずフライ級で名前を売らないと。防衛、統一戦などをクリアしていくのが第一。

 ――同級で注目のWBO王者・井岡一翔(31=Ambition)と田中恒成(25=畑中)の世界戦(31日、東京・大田区総合体育館)をどう見る

 中谷 アグレッシブな田中選手の方が積極的にいくタイプなので、ポイント的には取りやすいと思う。井岡選手が冷静にどう崩すかだが、技術、勢い、スピードがある田中選手がぎりぎりのところでポイントを取っていくのかなと。勝ったほうとやりたいか? もちろん。でも2人とも名のある選手なので「戦ったら面白い」と言われるように、今の自分のベルトの価値を上げていきたい。

 ――自身も大みそかにビッグマッチは

 中谷 いい年越しができそうだし、勝てば最高の気分で一年を締めくくれるという部分ではやりたい。

 ――もし、WBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者の“モンスター”井上尚弥(27=大橋)と戦ったら…

 中谷 本当に「怪物」なんで。段階を踏んだ上で、チャレンジする選手だと思っている。3年後? そこを目標に。もちろんバンタム級も視野に入れてますし、前にルディ(エルナンデス・トレーナー)から「(フライ級から6階級上の)スーパーフェザー級までいける」と言ってももらっている。

 ――決して身長(171センチ)が高いだけの言葉ではない

 中谷 ボクシングスタイル的にも、通用するものを見いだしてくれたからなのかなと思う。フィジカルも110キロ以上の重りを持ってのスクワットで鍛えている。

 ――15歳で米国修行を決意した。苦労は

 中谷 言葉は大変でしたが、身の回りのことは(トレーナーの)岡部(大介)さんがいてくれて助かった。おにぎりを作ってくれて持ってきてくれたり。LA(ロサンゼルス)のサウスセントラルという銃声が聞こえるような治安の悪い街だった。ただ、ビザが取れず、3か月ごとにルディのお父さんのところでホームステイ。ルディが「俺の養子に」と。冗談で言っていると思ったが、僕の父が「名前は潤人エルナンデスになるのかなー」と言ったらルディが、がぜん本気になってしまった。もし本当にそうなったら、アメリカ人になって試合は日本でする“逆輸入ボクサー”になっていたかもしれません。

 ――すごい話だ…。いずれ米国進出は

 中谷 育ててもらった場所なんで視野に入れている。その時はニックネームを「潤人エルナンデス」にしたら面白いですね。

 ――ボクシングの選手ではないが、“キックの神童”那須川天心(22)は知っているか

 中谷 面識はありませんが、世界戦を見に来てくれていたって聞きました。

 ――ウエートも近いし条件がクリアできれば

 中谷 良いカウンター、センス、スピードもある選手。格闘技界でのトップですし…。いつか、タイミングが合えば。

 ――現在はコロナ禍で他の練習生と時間帯をずらすなど、細心の注意を払いながら練習に励んでいる。最後に東スポ読者にひと言

 中谷 これからいばらの道ですが、楽しい試合をお見せできるように頑張っていきたいと思います。期待して応援よろしくお願いします。

 ☆なかたに・じゅんと 1998年1月2日生まれ。三重県出身。中学卒業後、単身米国へ。元2階級制覇王者の畑山隆則氏らのトレーナーだったルディ・エルナンデス氏から指導を受ける。帰国後の2015年にプロデビュー。16年に全日本フライ級新人王、19年に日本同級王座を獲得。今年11月6日にジーメル・マグラモとの王座決定戦(東京・後楽園ホール)で8回KO勝ちしてWBO世界同級王者となった。左ボクサーファイター。戦績は21戦21勝(16KO)。171センチ。