秋元康氏が総合プロデュースする劇団4ドル50セントが、舞台「劇団4ドル50セントとろりえの年末」(12月23日初日、東京・中目黒キンケロ・シアター)で2020年を締めくくる。このほど、同劇団員の前田悠雅(22)立野沙紀(26)安倍乙(20)と、客演の女優岩井七世(31)が日刊スポーツの取材に応じた。
-クリスマスから年末、大みそかを舞台に、女性同士の恋愛を描いた物語です。それぞれの役どころと意気込みは
立野 私が演じる「みほ」は、簡単に言えば「忘れられない人」。主人公の「いのり」の元カノ役です。たまたま地元に帰ってきたいのりがみほに出会ってからの物語です。個人的にはあまり演じたことのない、女の子らしい女の子の役。普段からも周りからボーイッシュと言われるので、女の子らしさってどんなことなんだろう、って試行錯誤して稽古しています。1つ参考にさせていただいているのは、七世さん。
岩井 ありがとうございます(笑い)。
立野 女性からも好きになりそうな、本当に女性らしい女性なので。稽古の時に助けてくださったりとか、私たちが話しているのを見てすごいニコニコして聞いてくださったりして。「あ、こういうことなんだ」と思いました。
岩井 モテ期? 恥ずかしい(笑い)。
前田 稽古場では私たち3人(前田、立野、安倍)から猛アタック、みたいな感じになっています(笑い)。
安倍 私が演じる「REIKO」は、バンドマンが好きで、自分もバンドをやっている女の子。好きな男性のことで感情をフルに使っちゃう、情緒不安定で、憎めない子です。ちょっと自己中心的で、気にせずにずけずけと言っちゃうところは、私に似ていると思いましたけど、恋愛面は全然違いますね。
前田 私が演じるいのりは、現に「七子」という恋人がいて、一緒に暮らしているんですけど、地元で学生時代付き合っていたみほと再会してしまって、2人の間で気持ちが揺れ動く、半分浮気? みたいな複雑な役柄です。自分自身は好きになった人には一直線というか、他の人を好きになるってことは今までなかったので、こういう経験がなくて、結構難しい役だと思います。
-いのりは物語の主人公でもあります
前田 2人の間で揺れ動いて、誰かを傷つけて、でもその中で自分の気持ちに正直になって、どう決断するか、というか。1つの成長の物語でもあるので、繊細に、丁寧に演じていきたいですね。ただの浮気女じゃなくて、本当に大切な人は誰なのか、そういうところにいきつきたい。軽々しい作品にならないように稽古しています。
岩井 その七子の役です。いのりの現、彼女。すごくいい彼女だと思うんですよ。それをいのりも分かっているからこそ、どういう結末を迎えるのか…。帰って来る家のような女性でいられたらいいのかな、って思います。お客さま的には、いのりに共感することもあれば、七子に共感することもあると思う。人には「優しいね」って言われるけど、言うべきことを言えない自分に腹が立つというか、そういう女性ですね。
-演じる際に心掛けていることは
立野 私自身もつい最近、何年か前に一緒にレッスンを受けていた子と、駅で偶然再会して「あー!」ってなって、すごく懐かしさを感じたことがあって、「これだ!」と思いました。みほはいのりに彼女がいるとは知らなかったので、申し訳なさがないからこそ、楽しさのほうが強くて。その分、稽古が終わった後は、本当に七世さんに申し訳ない…(笑い)。
前田 素の自分にダメージ与えると思います。罪を犯すとか、誰かを傷つけるとか、罪悪感は持ちますね。フィクションとはいえ。
-個人的に、なりたい登場人物は
安倍 みほですね。女の子らしく生きたかった。生きたかったんですけど…。
立野 まだ間に合うよ!
安倍 間に合うかな~(笑い)。
-今年はエンターテインメント業界全体がコロナ禍で大打撃を受けました。劇団4ドル50セントとしては、約1年ぶりの有観客公演になります
立野 お客さんの生の反応があってこそ、舞台って成り立つんだな、ってすごく実感しました。夏にオンライン公演をやった後、個人でお客さんを入れた舞台に出させていただいた時に、すごく感動したんです。声は出せないけど、お客さんの表情が伝わることによって、自分の存在している意義があるんだな、って思えたというか。やっててよかった、って思えたので。
岩井 来られる人や、来たい人に情報が行き渡るように、こうして取材していただいたり、ツイッターでつぶやいたりして。知るべき人に知ってほしい、という思いですね。
安倍 高橋ジョージさんじゃないですけど、「何でもないような事が幸せだったと思う」って、すごく思いました。今まで普通に大きな会場とかでお客さんの前でやらせていただいたのは、すごく幸せだったんだと気付きました。だから、今回見に来てくださる方々は、本当にありがたいですし、大事にしたいな、って感じます。
前田 自粛期間が明けて、オンラインの芝居をやらせていただいて、その後にソロで有観客の舞台に出させていただいたんですけど、やっぱりまだもどかしさはありました。でも今回、毎回舞台に来てくれていた友達が、自粛期間明けでやっと初めて来てくれるので、懐かしいというか、やっと戻ってきたという感覚です。モチベーション上がりますし、そういう意味でも楽しみです。
-4月に上演予定だった主演舞台「伯爵のおるすばん」もコロナ禍で延期に
前田 稽古の段階で、演出家さんとか、スタッフさんが何回も稽古場を抜けて電話していたりして、これは厳しいかもな、って思っていました。思い返すと、やっぱり切なかったですね。でも、その日中に、ノートに「やってやるぞ」って書いたんです。なにくそ根性みたいなものが芽生えたと思います。絶対にまた「伯爵のおるすばん」をやるし、その時のためにもっと成長するぞ、っていう思いが今はありますね。
岩井 今年は公演の中止・延期ですごく悔しい思いもしましたけど、やっぱりお客さまと私たちの健康が一番大事なので、仕方ないですし、のみ込みました。元気でいてくだされば、また見に来ていただけるので、とにかく生きていてくださいという気持ちです。
立野 本当にそうですね。
岩井 あと、今回の公演って、今のところ配信予定がないですよね。この1年、演劇の形を変えようとして、生配信とか無観客とかをやってきて思ったのは、オンライン上で見る演劇って、やっぱり別物ってことなんです。新しいジャンルも開拓していかなきゃいけないとは思うんですけど、今回オフラインだけで演劇ができるというのは、個人的にはうれしいです。生身の人間を見て、お客さんが拍手する。お客さんが入って、見てくれることで、どういう作品なのかこっちも気付く、みたいなこともあると思うので。相互コミュニケーション。人間なので、千秋楽はまた違うものになっていたりすると思いますし。それが演劇の楽しさなのかなって。
前田、立野、安倍 (拍手)
-今年劇団4ドル50セントを離れてしまったメンバーもいました。コロナ禍を経て、劇団としての今後の展望は
立野 今年も何人かいなくなってしまって。夏のオンライン舞台「大人になる、には」の時に、岡田帆乃佳と、福島雪菜と、たまに中村碧十とも、「この先、劇団はどうなっていくんだろう」ってよく話したんです。今残っているメンバーって、意地で食らい付いている部分があると思う。やっぱり、応援してくださる方々にも喜んでいただきたいし、今年はできなかったけど、劇団としての本公演をやっていきたい。あと、今は前田がたくさん動いてくれているんです。
前田 ありがとう(笑い)。
立野 劇団のために動いているメンバーがいたら、今はそれに乗っかってくれるメンバーばかりだと思うので、スタッフさんだけに任せっきりになるんじゃなくて、劇団員がそれぞれに立ち上がって、来年は劇団4ドル50セントとしていろんなことができたらいいなって思うし、自分もそれに食い付いていきたいです。
安倍 悠雅ちゃんは今回、難しい役で、頭いっぱいいっぱいだと思うのに、さらに劇団4ドル50セントとして売れるためにはどうしたらいいか、って考えてくれて。そこまで気の利く女性ってあんまりいないから。向上心があって。私も悠雅ちゃんの考えを見習おう、って思いました。
立野 来年、頑張ろうね。
安倍 はい!
前田 この1年、大人数で集まるようなことがなかなかできなかった分、周りがやっている新しい策とかをやり始めるのも劇団は遅かったりしたし、個々で外部の活動に力を入れていた部分もありました。もちろんそれも大事だけど、ちょっと劇団を置いてけぼりにしちゃったのかな、っていう思いもあって。あらためて劇団4ドル50セントがやりたい、って今年最後に思っています。今までの(他劇団との)コラボ公演も、せっかく4ドルの名前がついているのに、4ドルのオリジナリティー感が欠けている感じがして。だからこそ、今回やっている試みもあるので!
立野 稽古で一緒にいるから、最近すごく(前田の)気持ちが伝わります。
前田 いろいろ考え始めていることもあるし、来年はしっかり動きたいです。やりたいことを、みんなでちゃんと形にしてやりたい。それを行動に移している劇団員って、今まではジャッキー(久道成光)くらいだったりしたので。動いてくれている劇団員がいるからこそ、みんなでそれをやらないと、と思っています!
岩井 劇団って、しんどいこともたくさんあると思う。1人のほうが楽な部分もあるから。続けていくとしたら、いやな時だってあるし、メンバーの入れ替わりもあるだろうし、辞めたりもすると思うし。めっちゃしんどいと思うんですけど、「それが自分の劇団だ」って自分たちが思えてるんだったら、本当に格好いい。ぜひ続けてほしいし、諦めないでほしい。今は意地でもいいから、その向こう側にある光をつかんでほしい! と思いました。
【取材・構成=横山慧】