名曲やヒット曲の秘話を紹介する連載「歌っていいな」の第33回は、1991年(平3)に発表されたCHAGE and ASKAの大ヒット曲「SAY YES」です。大ヒットドラマ「101回目のプロポーズ」の主題歌としても知られますが、曲の制作を依頼したプロデューサーは、映画界の巨匠のある言葉を指針にしていました。

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1994年春、CHAGE and ASKAは、香港、シンガポール、台湾でコンサートを行い、合計6万人を動員した。以来、チャゲアスが取り組んだアジアツアーをまとめた書籍「アジアンツアーの真実」には、各国のファンの反応が記された。「『SAY YES』で、チャゲアスを知りました。言葉は分からないけど、ドラマにはぴったりですてきな曲だと思います」(シンガポール、24歳女性)「ドラマを見て好きになりました。メロディーがいいですね」(香港、15歳女性)など。

「SAY YES」は、各国のアーティストにカバーされていた。コンサートスタッフの1人は「チャゲアスに合わせて、客席が現地の言葉で歌う。そして『SAY YES』の部分は同じだから大合唱になる。国籍や人種は関係ないと実感しました」。

まさにアジアのスタンダードナンバーになった「SAY YES」は、91年に放送されたフジテレビ系ドラマ「101回目のプロポーズ」の主題歌だった。武田鉄矢が演じた男が、浅野温子が演じたヒロインに「僕は死にましぇん」と思いをぶつける名場面が有名な同ドラマは、香港、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、中国で放送され、いずれも大ヒットした。

「101回目のプロポーズ」をプロデュースしたフジテレビの大多亮さんは、アジア各国で支持されたことについて、「”美女と野獣”の組み合わせで、恋愛で泣いたり笑ったりするシンプルなラブストーリーが良かったんでしょう」と話す。88年から約8年にわたって、連続ドラマ23本を制作し、平均視聴率は19%。テレビ界にトレンディードラマブームを巻き起こした大多さんは、同時にドラマ音楽の流れも変えた。「(映画監督の)黒沢明さんが『映像と音楽は足し算じゃない。掛け算だ』って言っているんです。それは、映画の話だけじゃない。テレビも同じことだと思いました。主題歌も、アーティストの世界観とドラマの世界観が同じではないと、ただの飾りになってしまう」。

「101回目のプロポーズ」の半年前、大多さんは大ヒットドラマ「東京ラブストーリー」を手掛け、音楽予算の少ない中、劇中にオーケストラをふんだんに使ったサウンドトラックを作った。主題歌も小田和正に頼み込んで作り直した。主題歌「ラブストーリーは突然に」は、売り上げ250万枚を突破し、ドラマの最高視聴率は32%を記録した。クライマックスに流れる主題歌は、物語をよりドラマチックに見せたのと同時に、その映像は曲のプロモーションビデオのようにも見えた。曲が聞こえただけで、ドラマの場面が浮かぶ。それが大多さんが思い描いたドラマ音楽の理想だった。

「東京ラブストーリー」の成功があっただけに「101回のプロポーズ」の主題歌にも期待がかかった。ただ、人選のきっかけは、ドラマ担当部署にチャゲアスの大ファンの女性がいて、大多さんにベスト盤のテープを聴かせたという身近な出来事がきっかけだった。これは「東京ラブストーリー」の時と同じだった。

作詞・作曲を担当した飛鳥涼には「ミディアムアップ(=中ぐらいより少し早いテンポ)のラブソング」とだけ注文した。ところが仕上がったのはスローバラードだった。「これが、飛鳥さんが考えた優しさなんだというスタッフの説明も納得できましたし、武田さんと温子さんは走り回るより、あれぐらいのテンポがちょうどいいと思い直しました」と振り返る。

ドラマの最高視聴率は、36・7%を記録し、「SAY YES」は、284万枚を売り上げた。放送終了後、大多さんはチャゲアスの公演会場に足を運んだ。そこでは、家族連れのファンが「SAY YES」を合唱する姿があった。それはアジアツアーに足を運んだ人たちと同じように、ドラマを通じ、曲に出合った人たちだった。「ドラマを作ってよかった」。大多さんは、プロデューサーみょうりを感じていた。【特別取材班】


※この記事は96年12月20日付の日刊スポーツに掲載されたものです。一部、加筆修正しました。連載「歌っていいな」は毎週日曜日に配信しています。