昨年8月10日に亡くなった俳優渡哲也さん(享年78)の初の自伝「流れゆくままに」(青志社)が27日に発売される。渡さんが14年から15年にかけ書き、少年時代や家族との思い出、慕い続けた石原裕次郎さんや妻俊子さんとの秘話、17年に亡くなった弟の俳優渡瀬恒彦さんへの思いなどをつづった。ほとんど語ってこなかった、早世した兄と弟についても記した。

関係者によると、渡さんへの自伝の依頼をしたのは、14年9月。前年に石原プロモーションが創立50周年を迎え、渡さんは旭日小綬章を受章した。当初、執筆を断られたが、約3カ月の交渉の末、承諾してくれたという。何事にも手を抜かない渡さんだけに、事細かに半生を振り返った。

渡さんは実は4兄弟で、6歳の時に兄を、12歳の時に弟を亡くしているという。これまで恒彦さんについて話すことはあっても、亡くなった兄と弟について話すことはほぼなかった。身近な人の死や、何度も大病を経験したことで得た人生観や死生観も記した。

裕次郎さんへの思いは強烈だ。裕次郎さんが81年に解離性大動脈瘤(りゅう)と診断され命が危ぶまれた時のことを振り返り、「殉死」という言葉を思ったとした。

吉永小百合への感謝もつづった。初共演の映画「愛と死の記録」(66年)で役作りに没頭、演じるおもしろさを味わった。役者としてあるのは吉永のおかげ、とした。20冊以上ある家族アルバムの中、家族以外が写っているのは、裕次郎さん、吉永だけだという。

若い時代のエピソードも満載だ。高校時代に初めて女性の胸を触ってドキドキしたこと、青学大で出会った俊子さんとの初デートがボクシング観戦だったこと、息子の誕生。空手部で鍛えケンカが強いことで有名だった渡さんが日活宣伝部とトラブルになり「顔面に突きを入れてノシてしまった」など、生き生きとした描写もある。

渡さんは半年で8割ほど執筆したが、15年に急性心筋梗塞で手術、書き進めることができなかった。それでも推敲(すいこう)を重ね、関係者が付記や寄稿をして完成した。