【ライブレポート】lynch.、全国ツアー開幕「この最高の場所を守るために」

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「ついに……ついにというか、やっとですね」

 ツアー初日のライブ序盤、最新アルバム『ULTIMA』からのナンバーを中心にたたみ掛けた猛攻が一段落した後、最初のMCのなかで葉月(Vo)は、こんな風に現在の心中を明かしていた──。

◆ライブ画像(8枚)

lynch.の全国ツアー<TOUR’21 -ULTIMA->が、5月10日の神奈川・KT Zepp YOKOHAMA公演を手始めに開幕したが、これはコロナ禍によって中止や延期となった全国ツアー<[XV]act:5 TOUR’20 -ULTIMA->(当初の予定では2020年4~7月に開催)の振替にあたり、ツアータイトルが示す通り、2020年3月リリースの『ULTIMA』を携えたいわゆる“新曲初下ろし”のツアーでもある。

それゆえ彼ら自身にとって本当に長らく待ち望んだ瞬間だったであろうことが、上記の葉月の飾らぬ物言いから窺える。その上、ただ漫然と時がやって来るのを待つのではなく、lynch.に関わるさまざまな人々の努力によって今回のツアーを実現させたのだということも、その言葉と語気から伝わってきた。さらに言えば、今年2月に開催予定だった、悲願の日本武道館公演が中止になる悔しさも糧にしてたどり着いたツアー初日だけに、メンバーの並々ならぬ気合いの入りぶりは想像に難くない。



いよいよ開演の時を迎えラウドなSEが鳴り響くなか、黒衣に身を包む楽器隊4人が定位置につき、最後に一人悠然と登場した葉月は、手を掲げてフロアを煽る。「lynch.です、よろしくお願いします」という彼の言葉に、拍手で応えるオーディエンス。言うまでもなく、観客はマスク着用/声出し禁止など制限下での公演だからこそのリアクションだが、その力強い拍手の音のみで迎える様が、満を持してのツアーの始まりにふさわしい厳かな雰囲気を演出していた。そこに被さるリリカルな鍵盤の音色と女声コーラスが「ULTIMA」の始まりを告げる。そして、静から動へ──聴く者の身体にズシリと重く響くエイトビートを礎に、ハードなツインギターサウンドが轟き、艶のある歌声と野性味あふれるシャウトがのっけから乱舞。まさしくlynch.の帰還を実感させる堂々たる幕開けだ。

曲が終わるや、晁直(Dr)による鋭いハイハットのカウント一閃、「横浜! ようこそ処刑台へ!」という檄と共に、『GALLOWS』からのタイトルトラックで瞬時にギアチェンジをはかり激走体制へ。先ほどまでは自身のポジションで曲に入り込みプレイしていた各メンバーだが、ここではアグレッションを全開にしてパフォーマンス。ステージ上手側の玲央(G)はグッと腰を落として熱いヘッドバンギングを見せてプレイ、明徳(B)はステージ最前へと飛び出し、たぎる想いをさらけ出しながら演奏する。下手側を見やれば、悠介(G)もまた青い炎とでも言うべき、実は熱量の大きい静かなる闘志を宿していることが伝わるたたずまいである。客席にもヘッドバンギングの嵐が吹き荒れ、その画は実に壮観だ。曲の後半には「歌ってくれ! 聴こえるだろ?」と葉月が言い、オーディエンスの心の声を全身で受け止めるようなシーンも生まれていく。



以降、間髪入れずに曲は「XERO」、「RUDENESS」と、ここで再び『ULTIMA』収録曲が連打され、息つく暇を与えず。暴風雨の如き圧倒的展開であり、加えて、 “『ULTIMA』の世界観を再現した巨大ライティングシステム”(ニュースリリースより)が放つド派手な照明が、ライブの勢いをより一層加速させていたことは間違いない。

ここでMCを挟み、記事冒頭の葉月の言葉へとつながるわけだが、さらにライブに来たくても来られない人がいる現状にジレンマを抱えた日々を過ごしてきたことなどを告白。しかし、集まったオーディエンスを前にして、「バンドでデカい音で音楽を鳴らして、それに対して皆さんは声は出せないけど、身体を使って暴れる、ノるっていうこの状態は喜んでいいんじゃないですかね。今日ぐらい楽しくやりましょう、よろしくお願いします」と、何かが吹っ切れたように語る彼の姿がそこにあった。



そこからも『XⅢ』収録の「GROTESQUE」といった過去曲を入れつつ、あくまで主軸となるのは『ULTIMA』である。メタリックなスラッシュリフと大胆なリズムチェンジを導入した「ALLERGIE」、キャッチーな歌謡性が光る「IDOL」など、曲調に幅を持たせながらもどれもがlynch.の色で彩られたものばかりで、『ULTIMA』の世界を次々に提示していく。今時期のライブらしく“換気”の時間を設ける際には、葉月だけでなく他のメンバーの声を聞くことができ、今後のツアーでは“メンバー同士の質問タイム”になる可能性が予告されたりも。この辺りは、ちょっとしたライブならではのお楽しみのひとつになっていくのかもしれない。

さて、ここでそれまでの攻撃性は一旦影を潜め、いわばメロウサイドに位置する最新のナンバーを集中的に披露。音の壁から一転、ギターのディレイフレーズを活かした「IN THIS ERA」といった、空間美も感じられる曲が続く。「lynch.の静かな深い部分」(葉月談)を堪能できるセクションだが、特に「ASTER」などはダークなるV系の美を正統に継承するナンバーで、そのドラマティックな世界観はライブでより説得力を増すことが早くも証明されていたことも記しておきたい。



ここまででも十分に濃厚な中身であったが、これでもまだ中盤を過ぎた辺り。次いで、第2幕とも言えるような「D.A.R.K.」を起点とする重厚かつスケール感のある立ち上がりがまたクールで、さらにイントロのド頭で勝負あった!と思わせるファストな名曲「THE FATAL HOUR HAS COME」の登場に湧き立つ場内。声は発せずとも全身で反応するオーディエンスの姿から高揚っぷりはひしひしと伝わってきた。その光景を前に「いいねぇ!」と思わず言葉を漏らし、積極的にコミュニケーションを図っていく葉月の気持ちもよく分かる。

獣声シャウトが猛威をふるう『ULTIMA』からの激烈マッドチューン「MACHINE」や、初期からのスタンダード「pulse_」など、時代を問わず新旧織り交ぜながら進んでいった躁状態の終盤戦。そして、「この曲はみんなの歌声がないと絶対に完成しないと思っていた曲です。声は出せないけど、心の中で思いきり歌ってください……!」という言葉と共に本編を締め括ったのは、『ULTIMA』のラストナンバーでもある「EUREKA」だった。親しみやすい王道感のある曲調とポジティブなメロディはラストにふさわしく、まさに今この瞬間の景色を想定して生まれてきた曲だろう。自身の決意とファンへの想いが込められた歌詞も象徴的だ。中間部には悠介から玲央へ、さらには明徳へとバトンを渡すソロパートが設けられ、その都度各メンバーの名前をコールする葉月。どこまでもドラマティックなまま曲はエンディングを迎え、大きな余韻と心からの大きな拍手に包まれるなか、メンバーは一度ステージを後にした。



そして、しばしのインターバルを挟み迎えたアンコール。この日は悠介のバースデイ当日ということで、葉月の誘導により、晁直が本気で「Happy birthday to you」を歌うという和やかな場面も。今宵アンコールの主役となった悠介は、「またみんなの声を聞きたいですし、通常のライブができるまで僕らも頑張るので、皆さんも頑張って生きて下さい」と想いを伝える。

また、いざ曲に入る直前の煽りは急きょ玲央が務めることになり、「必ず以前までの光景に戻ると僕は信じてます。そのために力を貸して下さい」と語られたが、ツアー初日のこのタイミングで、リーダーの彼にこうした役が回ってきたのは必然だったのかもしれない。その後、「ALL THIS I'LL GIVE YOU」に始まり、永遠のアンセム「ADORE」に至るまで、悠介が各時代から選んだ4曲を立て続けに披露。lynch.特有の激情を終始キープしたまま一気に駆け抜け、全メニューを終えたのだった。



「僕らがツアーをやっているということが、今日来たくても来られない人たちにとって、もしかしたら救いになるかもしれないと思ったんです。行けなくて悔しい想いはもちろんあるかもしれないけど、lynch.は今ライブをやっている、この最高の場所を守るために今全国を駆け回っているんだと……観に来ているみんなはもちろん、来られないみんなの力になればいいなと思ってやっています」

現在の状況下でさまざまな環境にいる人たちのことも気づかいながら、アンコール時のMCでこう話していた葉月。さらにステージを去る間際には、「俺ら全員、武道館のことを忘れてないですから!」と改めて確かな言葉で伝えることも忘れない。常にファンの想いを胸に歩み続けてきたlynch.の新しい旅路は、今ここからまた始まるのだろう。

文◎早川洋介

■<TOUR'21 -ULTIMA->各公演スケジュール

2021年
※終了公演は割愛
5月21日(金)Zepp Osaka Bayside17:00/18:00 (振替公演) ※再延期または公演中止に
5月29日(土)Zepp Nagoya 16:00/17:00 (振替公演)
6月02日(水)Zepp Fukuoka 17:00/18:00
6月03日(木)Zepp Fukuoka 17:00/18:00
6月05日(土)BLUE LIVE HIROSHIMA 16:00/17:00
6月11日(金)SENDAI GIGS 17:00/18:00
6月12日(土)SENDAI GIGS 16:00/17:00
6月15日(火)Zepp Sapporo 17:00/18:00
6月16日(水)Zepp Sapporo 17:00/18:00
7月04日(日)TACHIKAWA STAGE GARDEN 16:00/17:00 (振替公演)
7月14日(水)LINE CUBE SHIBUYA 17:00/18:00
7月17日(土)日本特殊陶業市民会館 フォレストホール 16:00/17:00
7月23日(金・祝)フェニーチェ堺 大ホール 16:00/17:00

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