食えない老人たちのしぶとい争いをとびっきりのキャストで描いたのが「カムバック・トゥ・ハリウッド!!」(6月4日公開)だ。

舞台は70年代のハリウッド。オスカー作品の製作を夢見るB級プロデューサーのマックス(ロバート・デ・ニーロ)は映画マニアのギャング、レジー(モーガン・フリーマン)からの借金で首が回らない。

窮余の一策として思い付いたのが大掛かりな保険金詐欺だった。撮影中に主演俳優が亡くなれば多額の保険金が入る。借金がチャラになる上に、温めていた大作の製作費も手に入る。

とっくにボツになっていた危険なスタントだらけの西部劇の脚本を引っ張り出し、往年の俳優たちが入所している老人ホームを巡って「主演俳優」探しに取りかかる。白羽の矢を立てたのは往年のスター、デューク(トミー・リー・ジョーンズ)。過去に西部劇の名作があり、自殺願望もあって申し分がない。監督には素人同然のギャル風新人(ケイト・カッツマン)を起用し、お膳立ては整った。

撮影が始まると、マックスは馬やつり橋、そして猛牛にこっそりと「仕掛け」をほどこし、じっとその時を待つ。が、予想外にしぶといデュークは次々に死のワナを乗り越え、彼を敬愛する監督も意外な粘りを見せて「神シーン」をものにしていく。

イライラを募らせるマックスだが、ラッシュ(撮影済みシーンの試写)を見て胸を打たれる。「これはオスカーを取れる作品になるかもしれない」。そんな時、保険金詐欺の共犯であるレジーが業を煮やしてデュークを殺しにやってきて……。

「ミッドナイト・ラン」(88年)の脚本で知られるジョージ・ギャロ監督は学生時代にたまたま見た16ミリの未完成作品をもとにこの作品を仕上げたという。レジェンド3人が顔をそろえた現場では「全員が毎日大いに楽しんだ」という。

そんなゆったりとした現場で、3人は思いっきりキャラを立てている。人当たりはいいが、裏では何を考えているか分からない。そんな映画プロデューサーの軽さや醜さがデ・ニーロの薄ら笑いから伝わってくる。真顔のアップになったフリーマンは目がガラス玉のように見えて思いっきり怖い。深いしわに覆われて何事にも動じないようなジョーンズは本当に怖いもの知らずに見える。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(19年)で描かれたのよりはちょっとだけ後の時代。今作にもオマージュや小ネタがところどころにあって、往年の映画ファンにはそれも魅力になっている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「カムバック・トゥ・ハリウッド!!」の一場面(C)2020 The Comeback Trail, LLC All rights Reserved
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