昨年、WOWOWで見た連続ドラマ「キリング・イヴ」は刺激的な作品だった。サイコパスの暗殺者ヴィラネル(ジョディ・カマー)とMI6の捜査官イヴ(サンドラ・オー)の攻防を描く物語。暗殺シーンをポップな彩りに包みながら、実はシリアスに進行する異色のスパイスリラーだった。

敵対していたヴィラネルとイヴは、パート2から引かれ合う妖しい関係になり、展開はどんどん複雑になる。女性同士の奇妙な絆が東西にまたがるスパイ世界のこんがらがった事情をあぶり出していく。このパート2をショーランナー(現場責任者)として取り仕切ったのがエメラルド・フェネル(35)で、彼女が初監督した映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」(7月16日公開)にもこれに似た独特の味わいがある。

医学生として将来を嘱望されていたキャシー(キャリー・マリガン)は、親友がレイプされ、自殺してしまった事件をきっかけに医学部を中退。カフェの店員として一見無為に暮らしている。実は彼女にはもうひとつの「夜の顔」がある。バーで泥酔した振りをし、お持ち帰りに及んだ男たちに「制裁」を下すことで、忌まわしい過去に彼女なりの折り合いを付けていたのだ。

ある日、大学時代のクラスメートで、今は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。偶然の再会はキャシーに恋心を思い出させるが、一方で、親友を死に追いやった事件の「真相」に迫るきっかけにもなる。レイプ犯は当時のクラスメートの1人。医者としてのうのうと暮らしているはずなのだ。ライアンの情報を元にキャシーの復讐(ふくしゅう)が始まる。

失望やほのかな恋心…行動的に見えながらキャシーの心はデリケートだ。メークの変化で一見派手に見えるが、マリガンはかなり抑制的に演技をしていて、それが性的偏見に対する怒りの深さを印象づける。その矛先は男だけでなく、やたらに同調圧力の強い女や立場に甘んじる「わきまえ女」にも向けられる。

カラフルな色調で安心させながら、ドキッとするような「毒」を投げつけてくる手法はまさに「キリング・イヴ」のそれである。

それにしても最終盤の展開は予想外だった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)