連載「われら第7世代!~演歌・歌謡曲のニューパワー~」の二見颯一(ふたみ・そういち=22)の第2回です。デビュー2年目から新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、活動が制限されましたが、逆風の中、弱点克服や新しいことへの挑戦を続けました。日刊スポーツのベテラン笹森文彦記者が若き歌手の成長ストーリーに迫ります。

笑顔で質問に答える二見颯一(撮影・菅敏)
笑顔で質問に答える二見颯一(撮影・菅敏)

本名は二見颯(そう)。「颯」の音読みは「サツ、ソウ、ロウ」など。意味は「風の吹くさま、清らか、きびきびしている」。訓読みは「はやて」で、急に吹く風の意味。「颯爽(さっそう)と現れる」はよく聞く表現だ。さわやかなイメージを湧かせるが、二見に命名された意味は違った。

颯は「立つ」と「風」。母は「どんな向かい風でも立って行けるような子になって欲しい」と願った。そして、芸名は「日本一の歌手に」の期待を込めて「颯一」に。新型コロナウイルスという向かい風にもしっかり地に足を着けて、3年目を迎えている。

二見 (コロナ禍で)1年目と2年目で状況がガラッと変わって。どうにかして「二見颯一」を届けようと、スタッフの皆さんと一緒に切磋琢磨(せっさたくま)しています。その2年目を、何とか乗り越えられた自信がついたので、これからも「取りあえずやってみよう」の精神で頑張って行きたいです。

民謡出身で、17年に開催された老舗レコード会社、日本クラウンの「演歌・歌謡曲新人歌手オーディション」でグランプリを獲得した。氷川きよしや山内恵介を育てた作曲家水森英夫氏(71)に師事し、レッスンを重ねた。19年3月にシングル「哀愁峠」(作詞たきのえいじ、作曲・水森英夫、編曲・石倉重信)で歌手デビュー。故郷宮崎県を舞台にした望郷演歌で、故郷に帰りたいけど、まだ帰れない心情を、民謡で鍛えた「やまびこボイス」で表現した。

20年4月に発表した第2弾「刈干恋歌」(作詞たきのえいじ、作曲・水森英夫、編曲・石倉重信)も望郷演歌。ただ一般的な設定とは逆で、都会に出た女性を、故郷で農作業に励みながら思う男性の心情を切々と歌っている。

二見 2作それぞれのカップリングも故郷を思う歌(「望郷ギター」「望郷終列車」)で、僕自身も宮崎から東京に出て来た経験があったので、すごくイメージしやすかったです。僕のことを知らなかった方が1人また1人と声を掛けてくださって、やっていけるかも、と思わせてくれた2曲です。

今年2月、第3弾の新曲「修善寺の夜」(作詞たきのえいじ、作曲・水森英夫、編曲・伊戸のりお)が発表された。前2作の望郷演歌とは一変。結ばれることなく別れた人を、1人修善寺で思う男の心情を歌う初挑戦のラブソング。コロナ禍の中、努力して出合えた作品だった。

二見 水森先生にはデビュー前から「二見の魅力は民謡を生かした高音にあるが、逆に低音が弱い」とずっと言われていました。コロナ禍で余儀なくされたステイホームの時間を、低音の研究に充てようと思ったんです。どうやったら低音が出るのか。ずっと研究しました。

弱点の「低音」克服のため、フランク・シナトラ、トム・ジョーンズといった往年のアメリカンポップスから、青江三奈、藤圭子、矢吹健らブルース系歌手の作品や戦時歌謡まで、さまざまなジャンルの曲を聴いた。

二見 (コロナ禍のよる)自粛前は、ずっと演歌を聴いていました。演歌を歌うから演歌を聴くという考え方だったのですが、いろんなジャンルを受け入れて、自分の演歌にその魅力を見いだすということも大事と気付きました。僕の中では(低音に対する意識が)180度変わりました。

成果を水森氏に聴いてもらった。今まであった高音の魅力と、新しい低音の魅力を織り交ぜた曲として「修善寺の夜」が完成した。水森氏に言われた。「デビューしてやっていけるかと思ったが、お前は自分の技を磨こうという欲が人一倍強い。技を磨けば磨くほど聴く人に伝わっていく。歌もそうだし、技もそうだけど、表情も変わったよ」。

二見 認められたような気がして、すごくうれしかった。「修善寺の夜」は結ばれることのない恋を歌っています。自分が経験していない歌詞の内容で、最初はどう歌うか悩みました。でも今は、自分なりに聴く人に伝わるように歌いたいと思っています。

ステイホーム期間を使ってYouTubeに「二見颯一チャンネル」を開設した。料理や絵画、書道、三味線などを披露している。ニュースキャスターになって情報を届けるなど、さまざま設定でファンとの接点を保っている。全国を回ってコンサートなどができないなど、希薄になる触れ合いを補っている。巧みな話術やコミカルな魅力など、素の部分を見られると好評という。

「二見颯一チャンネル」で三味線の腕前を披露している
「二見颯一チャンネル」で三味線の腕前を披露している

二見 水森先生に「演歌歌手は歌を歌っていればいいという時代ではない。お前は趣味がいっぱいあるのだから、それを見てもらうのもいいじゃないか」とアドバイスされました。これからも、いろんなことに挑戦したいと思っています。

民謡とともに5歳から始めた絵は本格的で、実家には書きためたスケッチブックもたくさんあるという。(つづく)

二見颯一が描いた故郷の宮崎の8月末の風景イラスト画
二見颯一が描いた故郷の宮崎の8月末の風景イラスト画

◆二見颯一(ふたみ・そういち)1998年(平10)10月26日、宮崎県生まれ。5歳から民謡を習い、12歳からボーカルスクールに通う。12年、中1で「民謡民舞少年少女全国大会中学生の部」優勝。高2の15年に「正調刈干切唄全国大会男性の部」優勝。19年3月「哀愁峠」でデビュー、日本歌手協会の最優秀新人賞獲得。21年に「日本ゴールドディスク大賞」の「ベスト・演歌/歌謡曲・ニュー・アーティスト」受賞。今年8月4日にアルバム「颯~はやて~2」を発売。現在、日大法学部4年。好きな食べ物は冷や汁と宮崎地鶏。176センチ、58キロ。血液型B。