カンヌ映画祭で日本映画史上、初の脚本賞を受賞した映画「ドライブ・マイ・カー」(20日公開)の濱口竜介監督(42)が、原作小説の作者・村上春樹氏(72)がDJを務めるラジオ番組「村上RADIO」の関連番組として、22日午後7時からTOKYO FMで放送される「-プレスペシャル」に出演。番組の中で、映画が2時間59分の長尺に及んだ理由を明かした。

「村上RADIO プレスペシャル」は、「村上RADIO」放送の1週間前に同局で放送される関連番組で、ミュージシャンの坂本美雨と小説家の小川哲氏がMCを務め「村上RADIO」に入りきらない音源の放送や村上氏の近況、作品の動向をニュース形式で伝えていく番組。「村上RADIO」が4月1日から、毎月最終日曜日の夜放送の月1回レギュラー番組になったのと併せて、その前週に関東ローカルでレギュラー放送されている。

濱口監督は、小川氏との対談の中で「結果的に約3時間の映画になってしまったんですけど(原作が)短編だったので、長編にしないといけない。常識的に2時間…2時間20分に膨らませるものとしては『ドライブ・マイ・カー』の話だけでは短いだろうなと思っていた」と語った。その上で「家福とドライバーの、みさきがメインキャラクターとして出てくる。この人たちが魅力的。(2人が)どういう行き先を見つけるかを基準にして一体、どうなっていくんだろうと、原作のキャラクターを裏切らない形で展開していければ」と企画開発中の心情を振り返った。

「ドライブ・マイ・カー」は、村上氏が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編で、同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾。14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に収められており、濱口監督は同作に加え「女のいない男たち」に収録された6編の短編の中から「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影し、脚本を作り上げた。

物語は、主演の西島秀俊(50)演じる舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介が満ち足りた日々を送る中、霧島れいか(49)演じる脚本家の妻音が、ある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまう。その2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福は、演劇祭の演出で向かった広島で、三浦透子(24)演じる寡黙な専属ドライバー渡利みさきと出会い、1度は拒否するも受け入れ、ともに過ごす中で、それまで目を背けていた、あることに気づかされていく心情を描く。

濱口監督は、小川氏から「179分という大作で、昨今の映画では珍しい長さだと思うんですけど、どのあたりで、この長さになってしまうと気付いてしまった?」と聞かれると「撮りながらも、これは長くなるかもな、と。150分(の分量)くらいの脚本だったんですけど、撮っていくうちに、この期に及んで、もっと加えたり」と続けた。その上で「家福と、みさきが基本的に、そんなにしゃべらない。物語の都合で、しゃべらせられないと感じるところがあり、この2人がようやく、ちゃんとしゃべるまで映画の半分くらいまで過ぎていて…そのくらいの時間がかかる感じが、脚本を書きながら分かっていく感じがあった。プロデューサーは大変だったと思う」と苦笑交じりで振り返った。

また、小川氏が「村上春樹さんの作品って、映画化しやすいような作品ではない気がしていて。小説として楽しむことの魅力を研ぎ澄ましている。映画、映像化は一筋縄ではいかないような気がする」と切り出し、濱口監督は「基本的には本当に難しいというか別物」と語る一幕もあった。その上で、同監督は「情景描写以上に、登場人物の中で起きている気持ちの流れみたいなものの描写力が、すさまじいという印象があった。それが世界中の人の心を捉えているところだとも思うし、それは映画が1番、出来ないところでもある。基本的な戦略としては、まず文章の再現は極力、避けるというか、ここにこう書いているから、こうしますということから出来る限り離れないと、映画化できない」とも語った。

29日午後7時からTOKYO FMなど全国38局ネットで放送される「村上RADIO」は「MUSIC in MURAKAMI~村上作品に出てくる音楽~」と題し、リスナーから募集した「村上春樹さんの小説に出てくる音楽リクエスト」に寄せられた楽曲を紹介する。