【東京五輪 祭典の舞台裏(8)】東京五輪で競泳男子の瀬戸大也(27=TEAM DAIYA)は最も注目を集めた選手の一人だった。昨年9月に自身の女性問題を報じられ、活動停止処分などを経て大舞台に立ったが、出場3種目で獲得したメダルはゼロ。不本意な結果の裏側で、いったい何が起こっていたのか――。

 6月のジャパンオープン(OP)で「金メダルは99%取れる」と自信を見せていた瀬戸は、本命種目の400メートル個人メドレーで予選敗退。その後も流れに乗ることができず、200メートルバタフライは決勝進出を逃し、200メートル個人メドレーは3位に100分の5秒差の4位に終わった。

 瀬戸は400メートルの敗因について、決勝を見据えて予選で余力を残すレースプランが裏目に出たと自己分析。しかし、日本代表の平井伯昌ヘッドコーチは大会中に「(6月末に行った)長野(でのタイムトライアル)の前に空回りしていて、そのときの泳ぎに戻っていた」と指摘した。作戦以前に、3種目ともにイメージ通りの泳ぎができていなかった可能性が高い。

 その瀬戸は昨年5月に小学5年から指導を受けてきた梅原孝之コーチとの関係を解消し、埼玉栄高時代の同級生・浦瑠一朗氏を新コーチに招へいした。新体制では気心が知れたスタッフに囲まれる半面、日本水連関係者からは「(瀬戸が)自由にやりたいから、周りがかき回されることも…」と懸念する声も上がっていた。

 指導者とのパワーバランスにも微妙な変化が生じていた。関係者によると、代表スタッフが浦氏に「(梅原コーチは)大也のカバンなんか持って歩かなかったぞ。それじゃあコーチじゃなくてマネジャーじゃないか」とツッコミを入れたこともあったという。瀬戸は以前に浦氏について「何でも話せる」と良好な関係性を強調していたが、いつしか両者の関係は〝一方通行〟になっていたのかもしれない。

 瀬戸はネット上のコメントに対して「いろいろ言われてむかつきますけど」といら立つ場面もあった。ただ、アスリートにとって〝反論〟の最大の手段は結果であることも理解しているはず。瀬戸自身、活動停止処分後は沈黙を貫き、実戦復帰した2月のジャパンOPで優勝することで批判を封じ込めた。

 次の目標に掲げる2024年パリ五輪では、今回の経験を糧にして表彰台の頂点に立てるのか。真価が問われる3年間となりそうだ。