中1だった69年夏のことはよく覚えている。アポロ11号が月面着陸。1カ月後に40万人を動員したウッドストック・フェスティバルが開催され、ジミ・ヘンドリックスの「星条旗」が後々まで語り草となった。

が、同じ頃ニューヨークで行われた一大音楽フェスのことはまったく知らなかった。現代のヒップホップ界を引っ張るアミール“クエストラブ”トンプソンが監督・製作総指揮で、この夏の「もう1つの奇跡」を秘蔵映像でつづったのが、このドキュメンタリーだ。

スティービー・ワンダーが圧倒的なドラミングを披露する序盤からいきなり引き込まれる。こんなスティービーは見たことがない。キング牧師暗殺1年の節目。悲しみよりはその前向きだった思いが聴衆を熱くする。「ハレの日」のポップな衣装で笑顔がはじけている。「黒人は米国文化の創造力の源」という監督の誇りが随所に感じられる。

最大のヤマ場はゴスペルの大御所マヘリア・ジャクソンと伸び盛りメイヴィス・ステイプルズのコラボ。キング牧師お気に入りの「プレシャス・ロード」の心揺さぶる感じは何なのだろう。遠い世界の遠い昔の出来事になぜか涙腺が緩む。

【相原斎】(このコラムの更新は毎週日曜日です)