不倫を描いた作品で、これほど心が痛まずに笑えるものは、そうないだろう。黒木華演じる妻を裏切り、不倫する夫を演じた柄本佑は、実生活では安藤サクラとの間に1児をもうけた父親だが「健康的に描いている。不倫が題材でここまで気持ちいい作品、あまりないと思う」と語っている。

漫画家の早川佐和子(黒木)は結婚5年目の夏、担当編集者の桜田千佳(奈緒)と夫俊夫(柄本)の不倫に気付きつつも新作を描き始め、自動車教習所に通い出した。佐和子が不在の間に原稿を盗み見た俊夫は、自分たちのような夫婦を描いた内容に不倫がバレたかも知れないと不安になる。

漫画の物語が、妻が教習所の若い男性の先生に淡い恋心を抱く流れに急展開してからが映画の真骨頂だろう。恐怖と嫉妬に心が揺れ、漫画と現実の境界線が曖昧になっていく俊夫と、夫を涼しげに見詰める佐和子のせめぎ合い…黒木と柄本の芝居は実にうまい。

思えば、黒木は14年の「小さいおうち」で働く家で奥様の不倫を知ってしまう女中を初々しく演じ、ベルリン映画祭で銀熊賞を獲得した。あれから7年。一見、おとなしそうに見えながら夫を追い詰める“サレ妻”を演じる姿に年輪のような、たくましさを感じた。【村上幸将】

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