〝白鵬理事長〟は誕生するのか。大相撲の元横綱白鵬(36)が土俵人生に区切りをつけた。秋場所を最後に現役を引退し、年寄「間垣」を襲名。1日の引退会見では「一から親方として勉強して頑張っていきたい」と指導者としての意気込みを語った。かねて大横綱は日本相撲協会の理事長就任を視野に入れているとみられるが、実際のところはどうなのか。現状と将来の可能性を探ってみると――。

 東京・両国国技館の大広間で引退会見に臨んだ白鵬は「ホッとした気持ちでいっぱい。全部出し切った」と心境を明かし「引退を決めたのは名古屋場所中の10日目(7月13日)。手術をした右ヒザが言うことを聞かなくなった。10勝の目標を達成した時に宿舎に戻り、親方をはじめ部屋の皆さんに伝えた。迷いはなかった」と決断に至る経緯を説明。途中で言葉に詰まり、目に涙を浮かべる場面もあった。

 また、宮城野部屋付きの親方となる今後へ向けては「一から親方として頑張っていきたい。優しさと弟子思いの親方になっていきたい」と意気込んだ。まずは「第二の白鵬」を育てることに注力する一方で、かねて角界内でささやかれているのが、将来的な理事長就任の野望だ。白鵬に近い関係者も「本人の口から直接聞いたことはない」と前置きした上で「いずれそこを目指していくことになるのでは」との見方を示した。

 現役時代は長く力士会の会長として関取衆をまとめ上げ、被災地への支援や土俵の再建などに尽力した。力士代表の立場から協会側に巡業の環境や待遇改善などを求めて却下された苦い経験もある。大相撲の将来を真剣に考えてきたとの自負があるだけに、協会運営のトップを目指すのは自然な流れとも言える。

 その地位に座るためには、親方衆の支持を得ることが不可欠な要素。現役時代の数々の問題行動で協会幹部から「要注意人物」として目をつけられていることは確かだが、味方が全くいないわけではない。これまで白鵬に対しては横綱審議委員会が何度も苦言を呈し、今年4月には有識者会議が「一代年寄」に否定的な見解を出し、横綱を名指しで非難した。

 今回の年寄襲名にあたり前代未聞の「誓約書」を提出させる伏線となった「年寄資格審査委員会」では、ベテラン親方が白鵬の年寄襲名に否定的な意見を強く主張。こうした〝白鵬いじめ〟とも言える状況に、若手親方を中心に「横綱がいじめられてばかりで気の毒だ」と同情的な見方も広がっている。現役時代から関係が深い親方を含めれば、すでに〝白鵬支持層〟は10人以上に上るとみられる。親方で協会に大きく貢献すれば、さらなる勢力拡大も夢ではない。

 もちろん、親方としての第一歩は下働きから始めなければならない。千代の富士や貴乃花といった大横綱も例外なく、本場所の場内警備から職務をスタートしている。元三役の親方は「(先輩親方に)あれをしろ、これをしろと完全にアゴで使われる。〝何でこんなヤツに…〟と思うこともあるけど、絶対に口にはできない。それは横綱でも同じ」と新米親方ならではの苦労を証言した。

 白鵬は間垣親方として近日中に部屋での指導を開始し、九州場所(11月14日初日、福岡国際センター)で本格的に〝親方デビュー〟を果たす。その働きぶりに注目が集まりそうだ。