人気ロールプレーイングゲーム「ドラゴンクエスト」(ドラクエ)シリーズやザ・ピーナッツ「恋のフーガ」、ヴィレッジ・シンガーズ「亜麻色の髪の乙女」などで知られる作曲家のすぎやまこういち(本名・椙山浩一)さんが9月30日、敗血症性ショックのため死去した。90歳だった。

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すぎやまさんは、初めて担当した86年発売の「ドラゴンクエスト」シリーズの第1作で、ゲーム音楽に革命をもたらした。それまでのゲーム音楽は無機質な単音が中心で、あくまでもゲームの脇役。当時新興ゲームメーカーだったスクウェア・エニックスの前身エニックスは、当時まだ少なかった、主人公がミッションをクリアしながら世界を旅するロールプレーイングゲームの世界観を表現するため、テレビゲーム以前からピンボールやカジノ、バックギャモンなどゲーム全般を趣味とし、愛したすぎやまさんに依頼。すでに「恋のフーガ」などのヒット曲を持つ作曲家がゲーム音楽を作曲するのは当時異例だったが、快諾を得て、ドラクエシリーズ作曲がスタートした。

すぎやまさんは、ゲームの場面ごとに異なる楽曲を作曲し、音楽の雰囲気で世界を表現した。オープニング曲「ロトのテーマ(ドラゴンクエストマーチ)」は、序盤のシナリオ「ロト」シリーズが終わってもなお継続して使われ、東京オリンピック(五輪)でも使用されるなど、作品だけでなく日本を代表するマーチ曲となった。

フィールドを旅する場面や、勇猛な雰囲気の戦闘場面でも、状況や戦う相手によって、雰囲気に差をつけた曲が細やかに作られた。「ドラゴンクエストIII~そして伝説へ」の「戦闘のテーマ」は、高校野球の応援テーマで定番化した。晴れてクリアした後のエンディング曲も人気が高く、CMなどでたびたび使用され、DJの素材にもなった。

すぎやまさんは、ゲームの発売ごとに、オーケストラで収録したアルバムも発表。NHK交響楽団などの一流オーケストラを相手に自ら指揮棒を振った。ブラスや電子オルガン編成のアルバムなども発表。インタビューでは「ドミソの和音が基本」と語るなど、耳馴染みが良いメロディーで、子供から大人まで広く長く愛される音楽制作に徹した。晩年までドラクエ曲のコンサートも開催。自ら指揮したほか、「お話」の時間を設け、音楽、ゲーム、日本文化などを幅広く伝えた。今や世界に認められる文化となったゲーム音楽を一ジャンルとして形成した第一人者だった。