――今年から独立して「舘プロ」を立ち上げましたが、以前は「石原プロモーション」という組織の中で俳優として活動していました。石原裕次郎さん、渡哲也さんという大先輩がいて、さらに後輩の俳優たちもいました。上下関係で言えば、挟まれる形でした。


ええ。僕、ずーっと中管理職でしたから、はい(笑い)


あまり心がけていたことはなくて、好き勝手やっていたというのはありますけど、ただ、すごく幸せだったのは僕には渡さんという人がいて、この人、と決めた自分がいて、全ての尺度がはっきりして、これはこうするんだ、ああするんだ、こうしたほうがいいんだと判断できた。だから、渡さんがいたおかげで、僕なりにすごくいろんなものがちゃんと見れた気はしています。僕は、そういう意味ではラッキーだったと思います。だから、中間管理職は、あまり叩かれる上につかないほうがいいんじゃないかな(笑い)


「リーダーシップ」について語る舘ひろし
「リーダーシップ」について語る舘ひろし

――叩かれたり、押しつぶされたりする上司は避ける?


はい(笑い)目上の人で、「あっ、この人のためならば自分は頑張れる」という人がいれば、その人を見つけることが、すごくいいことではないかな。もしかしたら、ちょっと古いかな、僕の考え方が。少なくとも、僕はそうだった。だから僕にとっては、やっぱり渡さんがいたということが幸運だったですね。わりと本当にのびのびとできていたのは、渡さんもいましたし、小林正彦専務という本当に素晴らしい調教師がいたし(笑い)。それとやっぱり石原裕次郎さんという全体に何でも包んでくれる人がいて、本当にすごく恵まれた。それを恵まれたと感じるか、感じないかは、その人自身だから。俺はそういう風に感じたんだよね。だから良かったのかもしれない。


――諸先輩から受けた影響を後輩に伝えるという部分はありましたか


いや、俺はね、若手に対して教えるというのがすごく苦手で。だからそこはあんまりうまくなかったのかもしれないね。ただ、俺はこうしているんだというのを見せれば、それで感じる人は感じてくれるかなという。これも、古いかな?


――古いついでに、ものすごくさかのぼりますけど、高校時代ラグビー部のキャプテンでしたね。リーダーというものを意識した初めての時期だったのでは


そうですね。キャプテンシーというものを初めて教わったというか。キャプテンって、1人だから。そうすると他と違うんだよね。


今でも一番覚えていて、今でも僕の中できっとキャプテンのあり方というか、基本なんですけど。その当時、僕らの時代というのは、練習中に水を飲んじゃいけないという時代でした。それで練習中は、のどがカラカラで、側溝に流れている水がきれいで、それをすくって飲みたいくらいの中で練習をしていた時があって。それで、ものすごい暑かった夏の練習で、途中で1回だけバケツに氷水を入れて、そこジュースの素みたいのを入れて、みんなで分けて飲むんですよ。それが練習の中で、休みがあるんですね。バケツの水を部員に配っていくじゃないですか。それで、2杯分くらい残ったんだよね。


2杯分くらい残ったから、「俺が飲む」って言ったら、当時のラグビー部長、先生が「だからお前はダメなんだ」って。「もし2杯残ったら、これは他の部員で、お前が飲まなくても、これを他の部員の人数に分けてやるのがキャプテンだ」って言われて、その時に「あ、そういうことだ」と気づいたんです。


だからそれが今もずっと僕の心の中に残っているというか。「ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige=身分の高い者はそれに応じて果たさなければいけない社会的責任と義務があるという欧米社会における道徳観)というか、つらいことを進んでするという。ラグビーをやっていて良かったなと思いますね、キャプテンシーということでは。


――そうした考え方は社会人になって以降も随所に出てくるものですか。


常には疲れちゃうけど、何かの時にはそれは出るというか。平たく言えば思いやりというか、そういうことなんでしょう。


――ドラマや映画の現場などでの座長としてのメンタリティはどのような感じで発揮されるのでしょうか


これは何通りかあると思うんだけど、大きく言うと2つあると思うんだよね。1つは渡さんみたいなタイプ。入ってくると現場がビシッと緊張して、すごく締まる。何か別の力がわいてくるっていうか。それで、俺はそこはちょっと逆で、とにかく現場は楽しくなきゃいけないっていう。たぶん僕は緊張するってことがあんまり好きじゃないって言うか、緊張に弱いというか(笑い)。緊張すると発揮できないんじゃないかとか。僕はそういうタイプ。


すごく緊張しいなんですよ。だからとにかく現場は明るくというか、緊張させないようにして引っ張っていきたいと、いつも思う。だから2つのやり方がある。それはその人の形かな。どの職種でもリーダーって、その2つのタイプっ如実にあるのかなと思います。


――張り詰めた部分も経験したことも踏まえてたどり着いた結論ですね。


そうですね。でも渡さんは俺には優しかったからね。他の人は緊張していたけど、俺にはあんまり緊張しないようにさせてたのかな。それはやはり人を見ていたんでしょうね。こいつは緊張させちゃいけないと思ったんでしょう。やっぱり素晴らしい上司ですね。


――そういうの経験を今後発揮していくのかも知れませんね


そうですね。人を見る目が僕にあるかはちょっと分かりませんけど、とにかく僕はモノを作っていくってことは楽しくなきゃいけないし、昔、(脚本家の)倉本聡先生の作品の中で、「つくるということはあそぶということ」っていうフレーズがあったんですよ。「つくるということは狂うということ」「つくるということはあそぶということ」。まさに、その通りだと思うんですよね。


(ニッカンスポーツ・コム/舘ひろし「人生哲学」)