映画のタイトルは原題と邦題を見比べると違いがあって意外と面白い。例えば、シルベスター・スタローンの代表作「ランボー」の原題は「First Blood」。ジャングルでマシンガンを持った姿のポスタービジュアルからすると、ダジャレではあるがランボーのほうが圧倒的に観に行きたくなる気がする。

さらにアカデミー受賞の「ゼロ・グラビティ」の原題は「グラビティ」。ゼロを付けることで無重力空間の世界観がしっくりとくる。宣伝・配給時のこのちょっとした決断が興行成績に大きく影響を与えているのではと想像する。

そして現在、Netflix(ネットフリックス)で「イカゲーム」に続いて話題になっている「地獄が呼んでいる」。こちらの原題は「地獄」のみ。「呼んでいる」を付けることで表現が柔らかくなり、興味もそそられるのではないだろうか。さすがに地獄だけだとまわりにも勧めにくい(笑い)。

さて「地獄が呼んでいる」、あらすじは、ゴリラみたいな“何か”が突然現れ、罪を起こしたであろう人間たちを地獄へ突き落とす。そしてその現象を神の裁きだと主張する宗教団体が現れ、物語は進んでいく。全6話だが、まだまだというか全く謎は解明されてなく、シーズン2が今から待ち遠しい。原作は韓国のウェブ漫画、そのままだが紙ではなくウェブのみで展開している。

昨年ヒットした「梨泰院クラス」も同じくウェブ漫画が原作だという。日本では、原作が小説や漫画のものは多数あるが、ウェブ漫画となるとそれほどなく、特にヒットともなるとあまり記憶がない。特徴としては、漫画や小説に比べても、飽きさせないように工夫されているのか、展開がとにかく早い。そして、スマホでの閲覧が主になるので文字サイズが大きく描写もどこかライトな印象をうける。

そのあたりが影響しているのか、映像作品との親和性がすごく高く感じる。実際、漫画を見てみると、映画の絵コンテのような出来あがりであり、それはページ内に情報を書き込んでいる従来の漫画とは違うものだと感じる。日本でも近々本格ブレイクするのではと予想する。

そこで、今回紹介する俳優は「地獄が呼んでいる」に出演しているヤン・イクチュン(46)。映画好きなら必ず聞いたことがあるのではないだろうか。一躍有名になったのは監督・主演を務めた映画「息もできない」。世界中の映画祭を席巻し、評価の高い作品である。

自身で資金を集め製作にこぎつけたが、途中でお金に困り、家も売り払ったという。フィクションであるが、どこかドキュメンタリーのような世界観。公開当時、サブカル好きな後輩が衝撃を受ける作品がありますよと話していたので観に行くと、エンドロールで見事に席を立てなかった(笑い)。それほど衝撃的な映画であったと記憶している。 その後、作品を作り続けるのかと思われたが、監督としてはほとんど活動せず、俳優としてのキャリアを重ねていく。最近では「あゝ、荒野」の熱演も記憶に新しい。いつかまた監督もしてほしいが、監督を経験した彼が選ぶ作品にも注目していきたい。ちなみに「息もできない」の原題は「トンパリ(=クソバエ)」。絶対に邦題のほうがいいですよね(笑い)。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)生まれ、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。今夏には最新作「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」が公開された。 (ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)