フィギュアスケートの全日本選手権(12月22~26日、さいたまスーパーアリーナ)が間近に迫ってきた。五輪2連覇の羽生結弦(ANA)、大会2連覇中の紀平梨花(トヨタ自動車)、アイスダンスの村元哉中&高橋大輔(ともに関大KFSC)など豪華メンバーがエントリーしており、高揚感が高まっている。

 今大会は来年の北京五輪代表選考会でもあり、審判が下す評価がアスリートの人生を左右するといっても過言ではない。そんなプレッシャーがジャッジにのしかかるが、最も難解な審査項目は何か? 元国際審判員でフィギュア界の〝生き字引〟と言われる杉田秀男氏は「ボーカルが入った曲が非常に難しいんです」と実情を明かす。

 フィギュアの採点は「技術点」と「演技構成点」の合計。前者はジャンプやステップなど技の難易度に応じた基礎点と出来映え点(GOE)の合算。後者は「スケート技術」「要素のつなぎ」「演技力」「構成力」「曲の解釈」の5項目が各10点満点で評価される。最後の「曲の解釈」はスケーターが音楽のニュアンスに合った表現をできているか否か?が基準になるが、杉田氏は「ボーカル曲で困るのは日本語以外の歌詞の時です。本来は歌詞をちゃんと理解した上で審査しないといけませんが、ロシア語などは歌詞の理解が困難。ジャッジの時はできるだけ事前に曲を調べていましたが、やはり限界がありましたね」と打ち明ける。

 例えば今季の村元&高橋はリズムダンスで「ソーラン節」を採用。歌詞の「どっこいしょ~」の場面で高橋が〝魚の一本釣り〟のように村元を持ち上げるリフトは日本のファンに大好評だが、海外ジャッジに伝わりづらい。杉田氏は「僕が日本代表監督だった時は公式練習で審判員に説明したり、アピールしていました」というが、すべての審判員が選手の曲を完璧に理解するのは至難の業だ。

「外国人ボーカルでも有名な曲や、特徴がある音楽ならスケーティングと結びつけれます。ただ、なじみもなくて歌詞も分からない曲は、本当に頭を悩ませますね」(杉田氏)

 採点競技にトラブルは付き物だが、思わぬ部分に審判の苦悩が隠されているようだ。