人形浄瑠璃文楽太夫で人間国宝の豊竹嶋大夫さん(83)の引退公演が22日、東京・国立劇場で千秋楽を迎えた。終演後に報道陣の取材に応じた嶋大夫さんは「長い間ありがとうございました。一生懸命につとめたことだけは自分でも満足しております」と語った。

 最後の演目「関取千両幟(のぼり)」で関取の夫を思いやる女房の思いを味わい深く語ると、満員の場内には大きな拍手が鳴り響いた。舞台上で行われた引退セレモニーでは、三味線の人間国宝、鶴沢寛治さんから花束を贈られ、固く握手。さらに人形遣いの人間国宝、吉田簑助さんからも花束を贈られ、人形と抱き合った。

 嶋大夫さんは「自分を全部出して、舞台をつとめさせていただくんだという気持ちは毎日変わりませんでした」と長年の太夫人生を振り返り、劇場関係者やファンら約200人に見送られて、劇場を後にした。

 松山市出身の嶋大夫さんは、1948年に十世豊竹若大夫に入門。55年にいったん文楽から退いたが、約12年のブランクを経て復帰し、68年に八世嶋大夫を襲名した。94年には太夫の最高位「切場(きりば)語り」となり、繊細な表現力で高く評価された。引退後は後進の指導に専念する。

 嶋大夫さんの引退で、現役の文楽太夫の人間国宝は不在となった。